命ある限り、真心を尽くすことを誓うと約束させた本人が、それをすっかり忘れていたようです。思い出した途端、周りに頭の心配をされました

珠宮さくら

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芽衣子たちが大学に入ってから、これまで以上にやたらと芽衣子が転ぶようになった。それに疲れが取れず、顔色もよくない日が続いていた。


(ふわふわする。雲の上を歩いているみたい)


もう転びすぎていて、どこが一番痛いのかすらわからなくなっていた。


「芽衣子。病院に行こう」
「……」
「芽衣子」
「……そうね。その方が、あなたに迷惑かけずに済みそう」
「迷惑なんて思ってない」
「あなたは、優しいもの」
「お前にだけだ」
「それじゃ、駄目よ。出会いを逃しちゃうわ。私が検査入院にでもなったら、合コンにでも行って」
「ふざけんな。誰が行くか」


芽衣子は、結構本気で幼なじみに話したが、怒らせただけだった。


(この手の話題になると怒るのよね。彼女ができないのを私のせいにし続けることないのに。友達に紹介しろって言われ続けるのも、うんざりなんだけどな)


病院で検査をしたら、病気が発覚した。芽衣子は、病気がわかって主治医に言われるのを両親と揃って聞いていたが、まるで他人事のようだった。

天唯は、大学に通いながら芽衣子の病室をよく訪れていた。芽衣子は、病気がわかってから大学を休学することにした。

ぼんやりする思考の時に芽衣子の病室に天唯が訪れることも増えた。芽衣子が一目惚れした時のように幼なじみが病室に来るたび、スローモーションのように見えた。


(不思議だわ。天唯だけが、スローモーションに見える。まるで、演出されてるみたい)


そんなことを思って、ぼーっとしていたら、天唯が不思議そうにした。


「芽衣子? どうした?」
「天唯。格好よく見える」
「……先生、呼ぶか?」
「いい。今更だよね。天唯は、前からずっと格好よかったんだもの」
「……」


無言でおでこに手を当てる天唯に芽衣子は笑ってしまった。


「熱なんてないわよ。さっき測ったばっかりだもよ」
「みたいだな。目に違和感は?」
「天唯。大丈夫。どこも何ともない」
「……」


天唯の病気がわかってから、芽衣子は検査ばかりしていた。その検査の結果で、両親は揉めに揉めることになった。病気のことではない。血液型のことだ。娘の病気よりも、両親にはそちらの方が一大事だったようだ。


(まさか、ママも不倫していたとはね)


芽衣子だけでなくて、弟妹たちも、父親が違うとわかったのだ。しかも、芽衣子と弟妹たちの父親が同じではなかったのだ。双子の父親までも、違うことに芽衣子は思考が追いつかなくなった。


(一体、何人と浮気してたんだか。というか、双子なのに父親が違うなんてことがあるのね。あの子たち、そっくりなのに)


兄弟がみんなそれぞれ父親が違うとわかって、芽衣子のお見舞いどころではないのは、両親のみで、弟妹たちはそんな両親と会話せずに芽衣子のところに良くきてくれていた。数年前とは大違いで、芽衣子を責め立てたり、玩具にすることもなかった。

責め立てる相手は、両親で特に母親のことを毛嫌いしていた。弟妹たちは会話どころか。顔を合わせようとはしていないようだ。

それでも、芽衣子の前では両親のことをボロクソに言うことはしなかった。芽衣子の前では、楽しい話題のみで、芽衣子が好むことばかりをしていて、両親とは大違いに姉に寄り添ってくれていた。


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