上 下
17 / 24

17

しおりを挟む

(あれ?)


予約した本を借りられたなら、次の予約をしておこうと夕食を食べてから、部屋に戻って図書館のホームページを見ていたら、芽衣子は本を借りられてはいない状態にあった。


「え? 何で??」
「芽衣子。風呂空いたぞ」
「天唯」
「どうした?」
「本を借りられてない」
「日にち間違えてたのか?」


芽衣子の部屋に入って来て、天唯はそんなことを言った。


「間違えてないわ。どうしたんだろ?」
「さぁな。それより、風呂入れ」
「……」
「芽衣子。シャワーだ」
「……わかった」
「ギブスは濡らすなよ」
「わかってる」


芽衣子の頭の中は、次に新しく予約し直して、数週間待ちをするのなら、歯抜けで読むか。きっちり読むかで悩んでいた。


(一巻丸々なら、予約し直した方が正解かも。……最悪すぎる)


そう思いながら芽衣子は、ショックを隠しきれない顔をして部屋を出て行った


天唯は自分が行けばよかったと思って、ホームページを見ていた。


「借りたのに返したみたいだな」


天唯は、パソコンを操作して、あることに気づいてしまった。借りたのにすぐ返したことになっていることに気づいて眉を顰めずにはいられなかった。


「ただ、借りると思ったんだがな。予約を受け取って、すぐに返却するって、新手の嫌がらせか? それか、何の本なのかを知りたかった……?」


そこまで、推理しても芽衣子にはそれを伝えることはなかった。


「何にせよ。俺の嫌いなタイプなのに代わりはないな」


芽衣子がいなくなった部屋で、ぽつりと呟いた言葉を聞く者はいなかった。







次の日、透哉は何食わぬ顔で教室にやって来た。


「浅見さん、おはよう」
「おはよう。あの、諏訪くん」
「これ、昨日預かった図書館カード。それと借りようとしてた本のシリーズ全巻」
「……これ、もしかして、わざわざ買ったの?」


本屋で買った物を渡されて、芽衣子は何とも言えない顔をした。しかも、その本だけでなくて、シリーズもの全部だ。


「凄い人気で、何週間も待ってるんだろ?」
「えぇ、そうね。凄い人気だから、仕方がないと思ってる」
「でも、凄く好きなら、買って手元にあったら、何度も読み返せるだろ? よかったら、もらって」
「……」


芽衣子は、そのシリーズを図書館で借りるのを楽しみにしていた。でも、部屋に置いておきたい小説ではない。芽衣子が部屋に置くのは、海外で発売されている小説ばかりだ。

それは、天唯の父親が書いているものだ。そして、今回のは天唯の母親が書いているものだ。どちらも、人気の作家だ。

芽衣子は、どちらの作品も好きだ。でも、天唯の母親の作品を買う気になれないのには理由があった。


「浅見さん?」
「……ごめんなさい。これは、受け取れないわ」
「え? でも」
「私、小説は外国の物しか買わないし、部屋にも置かないことにしてるの。だから、ごめんなさい」


芽衣子は、その小説を受け取ることはしなかった。


(部屋に置いておくなんて、無理だわ。そもそも、全巻を買って来たのをタダで受け取るわけにもいかないでしょ)


それこそ、透哉は良かれと思ってしたのだが、やり過ぎていた。彼に一目惚れしたと思っていた芽衣子だが、この出来事で一気に幻滅することになった。一目惚れしたことすら、勘違いだったのではないかと言うほどだった。

もっとも、勘違いではない。頭をぶつけたことで、脳内でちょっとした変換がなされて、一目惚れをして恋をしたと思っていたに過ぎない。

もので釣ろうとする人間を芽衣子は知っていた。天唯の母親と芽衣子の父親だ。2人は、付き合っていたことがある。それを芽衣子と天唯だけが知っていた。今も続いているかはわからないし、その辺のことには興味ない。気持ち悪いとは思うが、それだけだ。

そして、天唯が芽衣子の父親は自分の息子だと思って可愛がっているのだが、実際は芽衣子の父とは血の繋がりはないことが、親子鑑定でわかっている。そして、それは天唯の父親と違うことも芽衣子たちは知っていたが、親たちは何も知らないままだ。

つまり、天唯の母親の不倫相手は他にもいるということだ。

それを知っている芽衣子と天唯は誰かにのことを言うことなく、沈黙していた。

図書館カードだけを返してもらった芽衣子は、いつも通りに授業を受けた。だが、芽衣子が透哉の方を見ることはなかった。

一目惚れをして、恋をした相手に一番されたくないことをされることになった芽衣子は、透哉とは挨拶しかすることはなくなったのは、この日の出来事があったからだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

もう一度だけ。

しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。 最期に、うまく笑えたかな。 **タグご注意下さい。 ***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。 ****ありきたりなお話です。 *****小説家になろう様にても掲載しています。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

処理中です...