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しおりを挟む「芽衣子」
「……捻挫です」
「……」
幼なじみが流石に信じられない顔をしたのを芽衣子は見逃さなかった。器用に片眉だけをあげるのだ。信じきっていない時の天唯の癖だ。
幼なじみの本当か?という表情をしたくなるのは、芽衣子でもよくわかる。言葉にしない分、芽衣子には天唯のことだけはよくわかった。不思議なものだが、芽衣子は家族に天唯と同じようなことはできない。というか、天唯以外にできない。できてると思っていることは、大概勘違いだったりするのだが、天唯のことで勘違いすることは滅多になかった。
「捻挫だってば」
「……何日だ?」
「10日。……でも、もっとかかるかも」
天唯は、何とも言えない顔をしていた。ギブスと松葉杖を見ていた。
松葉杖に躍起になっている芽衣子に天唯は慣れたように荷物を持って帰宅した。処方された薬を見るなり、すぐに食べれそうなものと水を買ってくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして。今飲むなら、次に飲む時は気をつけろ」
「わかってる」
その後、今後の予定をサラッと決められた。天唯が迎えに来てくれて、帰る時には家まで送ってくれることになった。芽衣子は、痛み止めを飲んでから、スッキリとした顔をしていた。
「天唯。やっぱり悪いから、自分で何とかする」
「慌てただけで、そうなったのに? 流石に家からおんぶして移動はやらないからな」
「両足やると思ってるの?」
「やらない自信があるのか? 松葉杖にもたついてるのに?」
「……ないです」
天唯に言われて、何とも言えない顔をしながら、芽衣子は答えた。幼なじみの目を全く見れないまま、正直に答えるしかなかった。
(全く自信なんてない)
「あれ? 天唯兄ちゃん、遊びに来たの?」
「夕飯食べに来たんだろ? って、姉ちゃん、どうしたの?」
「あはは、ただいま」
「ママ~! 姉ちゃんがまた何かやって、天唯兄ちゃんに迷惑かけてるよ~!」
弟妹たちが玄関を開けてから、大騒ぎになった。母も、弟妹たちと同じような反応をして、呆れられたのは言うまでもない。
「天唯くん。付き添ってくれて、ありがとうね。芽衣子、ちゃんとお礼言ったの?」
「え? あ、それは、まだだった。ありがとう」
「……どういたしまして」
母に言われて、ハッとした顔をしてお礼を言った芽衣子。そんなことにも、慣れてしまっている天唯は夕飯を一緒にしながら、平然としていた。
この家で、一々リアクションをしないところも、天唯は慣らされたようなところがある。芽衣子のやることなすことだけでなくて、芽衣子の家族が天唯と全然違うのもあった。
天唯の家族は、家族揃って一緒に食事を取ることがない。みんなで、休日に出かけるなんてこともしない。各々が好きなように過ごすのが、天唯の家だ。
「天唯兄ちゃん、泊まってく?」
「遊ぼう!」
天唯は帰ろうとしたが、弟妹たちに捕まり、両親にも色々言われて、芽衣子が朝から世話になるのだからと芽衣子の足のギブスが取れるまでは、芽衣子の家に泊まることが確定した。
そして、痛み止めの時間を間違えそうになっている芽衣子に天唯がしっかりと時間を管理して伝えることも忘れなかった。
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