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しおりを挟む「こんなに腫れて。何で、すぐに来なかったの?」
「……すみません。授業に出たくて」
(ごめんなさい。嘘です。痛みに気づいたのは、人に言われたからで、連れて来てくれようとしたのを拒んだのは、私です)
芽衣子は、保健室に荷物よりは丁寧に運ばれて、天唯は保健医に頼んで、さっさとクラスに戻っていた。残された芽衣子は、保健医に怒られて小さくなっていた。
(痛いわけだわ。凄く腫れてる。ちょっと捻っただけなのに。ちょっと、ほんのちょっと、急いだだけなのに)
腫れてるのを見て余計に他人事のようにそれを見ていた。他人事のように見ていても、痛いものは痛い。
気づかない時は痛みなんてわからなかった。鈍いにも程があるが、意識し始めたら痛いなんてものでは済まされなくなった。
保健医は診察して、すぐにこう言った。
「これは、病院で見てもらった方がいいわね。ご両親に連絡するわ」
「……」
(はぁ、絶対笑われる)
腫れているのを見たせいか。益々痛い気がしていた芽衣子は、何で捻挫したかを家族に聞かれて正直に答えたら、笑われると思ってしょげていた。
でも、笑われる以上になるとは、この時の芽衣子は思ってもみなかった。
病院に行くのに付き添ってくれたのは、天唯だった。芽衣子の親は来れそうもなくて、タクシーで病院に行くことになったのだ。
そういうのに付き添ってくれるのも、幼なじみが何気に多かった。いや、多いなんてものじゃない。いつも、同い年なのに付き添ってくれる保護者の代わりは、天唯がしてくれていた。
そんな彼が、驚いていた。物凄く珍しい。他のことで驚かせられるものなら驚かせてみたいものだと思っていたが、芽衣子はまたも自分のドジで驚かせていることに何とも言えない顔をして視線を反らした。
「は?」
「……」
芽衣子が診察室から出て来たのを見て、第一声がそれだった。
芽衣子はギプスに松葉杖をついて出て来たのだ。そうなるのも無理はない。芽衣子も、診察室で絶句した。ギブスをはめられても、なお信じられなかった。往生際が悪いが、これが夢ではないかと思っている。目が覚めたらベッドなのを切望している。ベッドでなくともいい。ベッドから落ちて床の上だったとしても部屋の中なら、いいと思っていた。
でも、そうはならなかったのだ。夢だと思いたくとも、夢ではない。ほっぺをつねって目が覚めるなら、今頃真っ赤に腫れ上がっているほどしていただろう。
ギブスをしても痛いものは痛い。腫れ具合から痛み止めが処方された。それほど、腫れが酷いようだ。
(夕食まで、耐えられそうもないな。何か口にして痛み止めを飲もう)
そんなことを思っていた。今は、目の前の幼なじみのことだ。痛いのは、自分のせいだ。転んだのも、悪化させたのも自分だ。
今、目の前にいる幼なじみだけが、それにいち早く対処しようとしてくれていたのだ。
(迷惑かけたくないと思っていて、そのせいで更に迷惑かけてるのも私なのよね)
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