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しおりを挟む芽衣子は、宿題をするのを忘れて朝になって慌ててやった。思い出しただけでも、芽衣子にしては珍しいことだ。朝になって思い出すなんて、滅多にない。次の日になったら、完全に忘れてしまっているが、この人は思い出したのだ。そのため、ギリギリになろうとも宿題をやってから来た。
そのせいで、教科書を忘れたことに気づいたのは、天唯から早めに戻れと言われてクラスに戻ってからだった。
(しまった。教科書、忘れてきちゃった)
「浅見さん? どうかした?」
「えっと、どうもしないよ」
芽衣子は、透哉に声をかけられて咄嗟にそう答えていた。
(私の馬鹿。忘れたから、見せてって頼めばいいだけなのに。仕方ない。天唯に借りよう)
慌てて引き返して、天唯のところに行った。すると幼なじみのクラスの雰囲気が何やらおかしかったのだ。
(どうしたんだろ?)
不思議に思って首を傾げたくなっていた。それでも、幼なじみを見るなり、自分の来た理由を思い出して教科書を借りて、慌てると転ぶと言われて、お約束のように転んでしまいながら、恥ずかしさに顔を赤くしながら何とか授業に間に合った。
「浅見さん、大丈夫?」
「え?」
「足、痛いんじゃない?」
授業を終えてから、透哉にそんなことを言われてきょとんとしてしまった。
(足?? 何で、足? あれ? 確かに痛いかも……)
透哉に言われて、初めて転んだことで足を捻ったようだとわかった。普通は、こんな風に言われるまで気づかないなんてことはないはずだが、芽衣子は気づかないほど鈍いところがあった。
鈍いなんてものでは済まされないが、これが芽衣子の通常運転だ。
(私のドジ。何やってるんだろ)
「芽衣子」
「天唯。どうしたの?」
「教科書、取りに来た。次、数学だから返してくれ」
「あ、ごめん。ありがとう。助かった」
「別にいい。保健室行くなら、肩貸すぞ」
「そこまでじゃない」
「……なら、好きにしろ」
天唯は、それだけ言ってチラッと透哉を見て、自分のクラスに戻ってしまった。
芽衣子は素っ気ないが、あっさりと帰って行った幼なじみにこんなことを思った。
(やっぱり、バレてたか。私は、さっき気づいたのに。そんなに派手に転んだのかな? ……恥ずかしすぎる。しばらく、隣のクラスに行けないな)
芽衣子は、思わず拒否してしまっていた。条件反射のようなものだ。認めたくない恥ずかしさがあったせいだ。
「今のって、浅見さんの彼氏?」
「へ? ち、違うよ! 幼なじみ」
芽衣子は、透哉に声をかけられて驚きつつ、彼氏かと聞かれて更に驚いてしまった。他の人にも彼氏かと聞かれたことはあった。でも、透哉に聞かれたことにドキッとしてしまった。同じことを聞かれているはずなのに全然違う風に聞こえることに動揺しながら、誤解されたままではいられないと思うのも同時にだった。
それが、透哉に対してなのか。クラスの面々に勘違いされたくなかったのか。芽衣子には、その辺のことまで考える余裕はなかった。あるのは、天唯の耳に届いたら、迷惑をかけると思うだけだった。
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