命ある限り、真心を尽くすことを誓うと約束させた本人が、それをすっかり忘れていたようです。思い出した途端、周りに頭の心配をされました

珠宮さくら

文字の大きさ
上 下
12 / 24

12

しおりを挟む

芽衣子は、宿題をするのを忘れて朝になって慌ててやった。思い出しただけでも、芽衣子にしては珍しいことだ。朝になって思い出すなんて、滅多にない。次の日になったら、完全に忘れてしまっているが、この人は思い出したのだ。そのため、ギリギリになろうとも宿題をやってから来た。

そのせいで、教科書を忘れたことに気づいたのは、天唯から早めに戻れと言われてクラスに戻ってからだった。


(しまった。教科書、忘れてきちゃった)


「浅見さん? どうかした?」
「えっと、どうもしないよ」


芽衣子は、透哉に声をかけられて咄嗟にそう答えていた。


(私の馬鹿。忘れたから、見せてって頼めばいいだけなのに。仕方ない。天唯に借りよう)


慌てて引き返して、天唯のところに行った。すると幼なじみのクラスの雰囲気が何やらおかしかったのだ。


(どうしたんだろ?)


不思議に思って首を傾げたくなっていた。それでも、幼なじみを見るなり、自分の来た理由を思い出して教科書を借りて、慌てると転ぶと言われて、お約束のように転んでしまいながら、恥ずかしさに顔を赤くしながら何とか授業に間に合った。


「浅見さん、大丈夫?」
「え?」
「足、痛いんじゃない?」


授業を終えてから、透哉にそんなことを言われてきょとんとしてしまった。


(足?? 何で、足? あれ? 確かに痛いかも……)


透哉に言われて、初めて転んだことで足を捻ったようだとわかった。普通は、こんな風に言われるまで気づかないなんてことはないはずだが、芽衣子は気づかないほど鈍いところがあった。

鈍いなんてものでは済まされないが、これが芽衣子の通常運転だ。


(私のドジ。何やってるんだろ)


「芽衣子」
「天唯。どうしたの?」
「教科書、取りに来た。次、数学だから返してくれ」
「あ、ごめん。ありがとう。助かった」
「別にいい。保健室行くなら、肩貸すぞ」
「そこまでじゃない」
「……なら、好きにしろ」


天唯は、それだけ言ってチラッと透哉を見て、自分のクラスに戻ってしまった。

芽衣子は素っ気ないが、あっさりと帰って行った幼なじみにこんなことを思った。


(やっぱり、バレてたか。私は、さっき気づいたのに。そんなに派手に転んだのかな? ……恥ずかしすぎる。しばらく、隣のクラスに行けないな)


芽衣子は、思わず拒否してしまっていた。条件反射のようなものだ。認めたくない恥ずかしさがあったせいだ。


「今のって、浅見さんの彼氏?」
「へ? ち、違うよ! 幼なじみ」


芽衣子は、透哉に声をかけられて驚きつつ、彼氏かと聞かれて更に驚いてしまった。他の人にも彼氏かと聞かれたことはあった。でも、透哉に聞かれたことにドキッとしてしまった。同じことを聞かれているはずなのに全然違う風に聞こえることに動揺しながら、誤解されたままではいられないと思うのも同時にだった。

それが、透哉に対してなのか。クラスの面々に勘違いされたくなかったのか。芽衣子には、その辺のことまで考える余裕はなかった。あるのは、天唯の耳に届いたら、迷惑をかけると思うだけだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

恋した悪役令嬢は余命一年でした

葉方萌生
恋愛
イーギス国で暮らすハーマス公爵は、出来の良い2歳年下の弟に劣等感を抱きつつ、王位継承者として日々勉学に励んでいる。 そんな彼の元に突如現れたブロンズ色の髪の毛をしたルミ。彼女は隣国で悪役令嬢として名を馳せていたのだが、どうも噂に聞く彼女とは様子が違っていて……!?

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...