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天唯は、芽衣子が逃げ込んで来ても淡々としていて好きなことをやめる気はないが、話を無視するなんてことはなかった。本を読んでいても、聞いていないなんてことはないが、顔を上げるなり、本を読むのをやめたり、目を見て話すなんてあまりしなかった。

普通なら全く視線を寄越さなければ、ちゃんと聞いてるかとしつこく聞いているところなのかも知れないが、芽衣子はそんなことを天唯に聞いたことはなかった。


「その本、面白い?」
「まぁな」
「そっか。面白いんだ」
「……」


芽衣子も、本を読むが偏り方が半端ないのを天唯は良く知っていた。芽衣子が興味を持つ作家は、2人だけ。それ以外では、読書感想文やらの必要に迫られる時しか、この2人以外の小説を読んだ。そのため、芽衣子に面白いからと読めばいいと天唯が彼女にすすめることはなかった。

そんなことを芽衣子が幼なじみに聞くのは、天唯が面白い本を読んで楽しんでいるのを知るためであって、それ以上の意味はない。

そういうことが面倒なら天唯ははっきりと言うか。あからさまに無視するため、芽衣子も慣れたものだ。少なくとも天唯は他の女子に対する応対を芽衣子にすることはなかった。聞かれれば答えるし、余裕がなくて忙しいなら、後にしろと言っている。それをしないのなら、芽衣子が何を話そうとも聞いているのだから天唯の付き合いは物凄くいいと言えるのではなかろうか。

血の繋がっている人たちは、2人のようにする気はない。程よい距離感が、離れていられるのなら、離れていたいのだ。特に今の学校での状況よりも、芽衣子は家の中での方が居心地が悪くて仕方がなくなっていた。

芽衣子が思っていたことといえば……。


(変な話、血の繋がってる弟妹よりも、天唯といる方が落ち着くのよね。……私だけかも知れないけど。いや、でも、迷惑なら、はっきり言うから、まだ迷惑がられてはいないはず。でも、そのうち、言われるかもね。……いつまで、こうしてられるのかな)


そんなことを思いながら、今日も幼なじみのところに芽衣子はいた。他に親しい友達がいないわけではないが、クラスが離れすぎていて行ったり来たりするだけで休み時間がなくなってしまうため、幼なじみのところにばかり来ていた。

その度、芽衣子は二次被害を増長しているが、それに全く気づいてはいないようだ。


「うぅっ、私の席が椅子取りゲームみたいになってて、居づらい」
「なら、ずっと座ってろ。立たなきゃいい」
「聞いてた? 誰かしらが、座ってるんだよ」
「それは、芽衣子が席を立つからだろ? ずっと座ってれば、退けとは言わないだろ」
「それは、そうかもだけど。ずっと、椅子を死守し続けるためにくっついていたわけでもない」


そうなるとやたらと机やら芽衣子にぶつかって来るのだ。ぼやく芽衣子に天唯のクラスで、その会話を聞いている面々はみんな嫌がらせに他ならないと思っていた。

それを芽衣子は、わざとだとは思っていなかった。普通なら、とっくにわざとだと気づくところだが、彼女はそんなことを思うことはなかった。


「みんな、私みたいにドジみたいで、ちょっと安心してるんだよね」
「……」


天唯は、幼なじみのドジっぷりを良く知っていて、それがわざとだったら今頃、楽だったろうと思う程度でわざとしている女子たちの尻のデカさうんねんに何とも言えない顔をしていた。


「マジかよ。色々されてるのに全然気づいてないのか?」
「あの会話で、そこに落ち着くんだな」
「……」


天唯は、雰囲気がよくなくなったクラスで芽衣子の発言でまたも微妙な空気になっていることにため息をつきたくなっていた。

でも、芽衣子は更にこう続けた。


「私みたいなのが、転校生みたいに格好いい男子の隣になったことに申し訳なさを感じてるよ」
「……」


格好いいと言う単語に天唯の眉が器用にピクリと反応したが、芽衣子はそんな幼なじみのことを見ていなかった。

芽衣子は、自分が他人からどう見られているかに疎かった。男子たちから密かに可愛いと人気になっていることも知らずにいた。天然なところも、顔を赤くするのも、やることなすことが可愛く見られがちなことも気づいてはいない。人を悪く見ようとしない。そもそも、自分が可愛い分類に入る自覚が芽衣子には欠片もなかった。

幼なじみのことは、彼の他の兄、姉のように整った顔立ちをしていると思っていて、弟妹たちのことも愛らしい顔をしていると思っているが、自分は可愛い姿形をしているとは全く思っていなかった。

透哉に群がっている女子たちには、何があっても勝てないと思っているほどだった。

芽衣子は、転校生がやって来てからどんよりしていた。

そんな芽衣子を天唯は、何とも言えない顔をして見ていたことに気づかなかった。それは、このやり取りに飽きて来ていたのと1日違いで、そこからの付き合いなこともあり、家族どころか。本人が思っている以上に芽衣子のことでは、天唯は彼女のことを良くわかっていた。本人も無自覚でしていることにも、敏感だった。

そんな芽衣子は、頭を抱えたくなりながら、こんなことを思っていた。


(今の席より、転校生のことを眺められる距離でいいかな。近いところは、私の気が休まらない。席替えまでの我慢)


芽衣子は、そんなことを思っていて天唯が見ていることに全く気づいていなかった。


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