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普通なら、透哉のように転校して来て、右も左もわからずに友達もいない状況で、数日も経てば逃げ惑ったりしそうだが、そんなことをしても無駄だとわかっているかのように彼は典子してから特に何もしないままだった。

そんな彼は学校で噂の的となっていた。それこそ、群がる女子たちに紛れて、芽衣子も透哉に根掘り葉掘り聞こうとは一度も思わなかった。

それこそ、相手のことを聞くなら、自分のことを語らねばならないと思っていた。そんなことを曝け出せるほど、芽衣子は一目惚れしたはずの透哉にしたいとまで思っていなかった。

耳をそばだてて、情報を聞き続けるなんてことも思わなかった。同じような質問ばかりで、透哉が何か言う前に女子たちだけで盛り上がってしまっている感じになっているせいで、透哉の周りから芽衣子のように女子に押しやられて、休み時間ごとに離れるようになった。


「うんざりする。顔がいいから何なんだよ」
「そうだよな。怒りゃいいのに愛想笑いしてばっかいて、腹立つよな」
「あいつが、いい格好ばっかりするから、こんなことになってんのにな」


男子たちは、透哉にいい印象をもたなかったようだ。女子が転校生を見てから、騒ぎ続けているせいのようだ。

でも、そんな男子の苛立ちを女子は……。


「自分たちがモテないからって僻んでるみたいね」
「そりゃ、並んだら天と地ほどの差が出るもん。僻みたくもなるわよ」
「ダサいわよね」


そんな風に笑う女子もいた。そのせいで、クラスの中の雰囲気が益々悪くなってしまった。

迷惑していたのは、透哉の周りだけではなかった。透哉の周りに群がる女子たちは徐々に酷くなっていた。既に自分たちのクラスかのようにお構いなしになったのだ。

元より自分に自信のある連中が、透哉の周りに集結していた。自分よりも下だと思う者をあざ笑うことを良くしている連中だったようだ。

そのせいで、芽衣子は休み時間ごとに邪魔だと言わんばかりに追いやられるようになっていた。ただ彼女が透哉の隣というだけで、親の敵のように扱われるようになったのだ。芽衣子の方が他所のクラスから来ているかのようになっていて、クラスで一番の被害者は芽衣子だった。

ただ、転校生の隣の席になって座っているというだけで睨まれて、どこかに行かせようとまでになるまで、そんなに時間はかからなかった。

そんな彼女たちに睨みをきかせられるようになった芽衣子はというと……。


(目つき悪すぎ。そんな顔をしないと見えないなら、コンタクトにするか。眼鏡にした方が、いいと思うんだけど。好きな人とか、アプローチしている異性に見せたら、まずい顔だと思うんだけどな。……もしかして、本命とかじゃないのかな? ただ、格好いい人を視界にいれながらおしゃべりしたいとか?)


天然で、鈍いはずの芽衣子ですら、そんなことを思うほどになっていた。芽衣子は、目力によってそそくさと休み時間が来ると用事があるように席を立ってクラスからも出るようになるまで、すぐのことだった。

でも、それは芽衣子だけではなかった。他の生徒も、透哉の側の生徒は別のところに移動していた。クラスの雰囲気が悪いせいで、休み時間に他所に行く者も少なくなかった。その方が、イライラせずに済むからのようだ。

透哉以外のクラスの男子生徒は、休み時間ごとに騒がしくなるのと格好いいとあちこちで、透哉の話題ばかりになって、イライラが収まらなくなった始めようだ。だからといって、透哉にそのことをどうにかしろと言えば僻んでるかのように女子から馬鹿にされるのだ。関わりたくなくなっても無理はなかった。

最初の頃に透哉と話したがっていた女子も、ぐいぐいと来る他のクラスの顔に自信がある女子たちに追いやられていた。クラスの男子を馬鹿にしていたのが、今度は自分が馬鹿にされる側になったのだ。


「その顔で、よく話しかけようなんて思うわね」
「本当よね。鏡、ちゃんと見てる?」
「っ、」


そういう風に言われて、笑われるのだ。我が物顔で好き放題な振る舞いが目立つようになっていた。それも、透哉にはバッチリ目撃されているとは知らないのだろう。それを見ても関わりたくないかのように彼は知らぬ存ぜぬの顔をしたままだった。

未だに透哉の側にまとわりついている女子は、学校内でも可愛いとか。美人だと言われている者たちばかりで、透哉に話しかけるために気合をいれて化粧をしたり、髪型に気合が入っていたり、香る匂いに気合が入っていたりしていた。

それを見ている芽衣子は……。


(気合の入れ方から、みんな本命ってことよね? う~ん。でも、彼は1人しかいないのに。取り合いする気かな? それとも、共有するとか?? どちらにしろ。みんな自信がありすぎなくらいあって、羨ましいな)


芽衣子は、そんなことを思っていた。自信があり余っていて大変なことになっているという状況で、自分も被害を被っているというのに呑気なものだ。

だが、芽衣子のような者は殆どいなかった。いや、殆どどころか。芽衣子しかいなかった。それを見て、げんなりする者やいい加減にしてほしいと思う者が多くなる一方だったが、何をしていても転校生が格好いいと思う女子が圧倒的に多かった。それこそ、困った顔をしているだけでも、素敵だとうわ言のように言えるほどだ。芽衣子も一目惚れしたが、そこまでにはなれていない。

未だに気になってしまっていて、授業中に話しかけられたりするとその声にドギマギしてしまってはいたが、その熱も日にちが経つにつれて冷め始めていた。冷め始めていたというか。元々勘違いしていたのだが、それには気づかないままだった。


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