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しおりを挟むつい、透哉に話しかけられて、自己紹介をするのに必死になりすぎてしまっていて、手を上げたままになっていたのだ。芽衣子は、舞い上がっているから、たまたまこうなのではない。
常にドジなことをしていて、一つのことにいっぱいいっぱいになりすぎてしまうのだ。人はそれを天然というが、芽衣子にその自覚は欠片もない。そのため、この時もいつも以上に様子がおかしいことを変に思われることはなかった。
整った容姿の透哉を間近に見ながら、話しかけられたことに頭の中がいっぱいになりすぎて、間抜けなことをしていた。そう、見惚れていたせいで、やらかしたのだ。芽衣子としては、そう思いたかったが、見惚れていなくともやらかすことが多い芽衣子は、穴があったら入りたくなっていた。何なら、入った穴を埋めてほしいと思うことは芽衣子は少ないが、今回はそうしてほしいと思ってしまっていた。それほど酷かった。
芽衣子の顔は、林檎のように真っ赤になっていて、これでもかと身を小さくしていた。
「可愛いな」
「っ、」
ぼそっと透哉が、そんなことを言うのが聞こえて芽衣子はドギマギしてしまったが、彼が座った席の方を中々見れずにいた。
(声が頭の中に響くな。これが、恋ってこと? なんか、ふわふわした不思議な感じ)
脳内に響く感じにそんな浮かれたことを芽衣子は考えていた。
「浅見さん、ごめん。教科書、見せてもらってもいいかな? 手違いで、まだ来てないんだ」
「っ、」
声をかけられて頷く透哉が、机をくっつけて来て、芽衣子は距離が近くなったことに益々ドキドキして大変だった。
(心臓が、口から出そう。心臓の音が聞こえてないかな?)
それほど、心臓はやかましく早鐘を打っていた。ついでに後頭部もズキズキと痛んでいたが、今は心臓の方が心配でならなかった。
それが、透哉の転校初日に芽衣子にあったことだ。
この日は、芽衣子は彼に教科書を見せることになったが、休み時間のたびに女子に質問攻めになる透哉がいた。
(凄い人気。あっという間に学校中に知れ渡ったみたいね)
芽衣子は、初日から過ぎて、数日したところで席から追いやられるようになるとは、この時は思っていなかった。
その都度、席を離れるはめになるとは、芽衣子は全く思っていなくて、それほどまでに格好よい透哉とお近づきになりたがる女子が、このクラスに押し寄せるようになった。
ただ、透哉の隣になっただけで、芽衣子は羨ましがられることになるとは思わず、これから何かと大変な目に合うことになった。
ちなみに芽衣子の異変に気づいたのは、本人ではなくて芽衣子の幼なじみだった。
「お前、どうした?」
「え?」
「いつも以上におかしいぞ?」
「そ、そう?」
「……」
芽衣子は、一目惚れしたから舞い上がっていると思っていたが、幼なじみは物理的に何かあったと思う方が早かったようだが、芽衣子が平然としすぎてわからなかった。
ただ、この日からしばらく芽衣子は仰向けになると後頭部が痛いと思って、仰向けに寝るのを無意識に避けることになったようだ。
(なんか、眠りが浅いな。これも、恋したから??)
何でも都合よく考えていたことで、芽衣子は勘違いのまま一目惚れしたと思いこんでいた。
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