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それこそ、天音のために手伝いに来てくれたはずの女性は、一緒に部屋に来てくれたが何を持って行けばいいのかと聞くと……。


「必要だと思うものをお持ちください」


そう言うだけで、天音の手伝いなどしたくないと言わんばかりの態度にため息をつきたくなっていた。


(私みたいなのの手伝いなんてするためにこの仕事についたわけじゃないって態度ね。……まぁ、私がそっち側なら、同じこと思ってそうだけど。完全寮制で、長期休暇以外は滅多なことじゃ戻れないらしいから、必要最低限なものだけ選んでたら後で困りそうよね)


そんなことを思いながら、下の階で浮かれる両親が大騒ぎしていることに気づかなかった。

どうやら、天音が必死に学園に行く準備をいたたまれない空気の中でやっている間に親戚やら知り合いに電話しまくって、娘があやかし王子の婚約者になったと伝えまくったようだ。


「は?」


天音が、荷物を積み終えて車に乗り込もうとした時には、知り合いやら親戚が外に並んでいて、見送られることになり、顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしてしまった。


(何をしてくれてんのよ!? それこそ、何かの間違いだって言われて戻って来ることになったら、戻って来づらいじゃない!!)


天音は、よかれと思って浮かれる両親に怒鳴りたかったが、同じように浮かれて集まった面々にげんなりしてしまい、何か言う気も失せてしまった。

が、運転手としてやって来た男性が、正式に発表がなされていないのだからと他言無用を言い渡したはずだと天音の両親に言ったことで、大騒ぎしていた大人たちは顔色悪く黙ったのは、すぐだった。

一番顔色悪くしたのは、もちろん天音の両親だった。


「あ、そ、そうでしたか?」
「伝えたはずですが?」
「あ~、す、すみません。聞いてませんでした」
「でしたら、今、聞かれましたよね? 皆さんも、そういうことですので」


大人たちは、何を言うでもなく小さくなって頷く姿に天音は、苦笑するしかなかった。


(聞いてなかったのは、確かでしょうね。でも、発表がされた後で、今みたいに騒がれると思うと気軽に戻って来るのは考えものよね。……間違いだというのが一番ありそうだけど)


天音は、そんなことを思ってげんなりしながらも、見送りに来てくれたことにお礼を言うのを忘れることはなかった。


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