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しおりを挟む「は? アルフリーダは、シーグリッドと従姉妹同士なのか?」
エーヴェルトは婚約者のアルフリーダにいきなり呼び出されて何事だと思っていた。そもそも、結婚式が目前だというのに呑気にしているのも、どうなんだと思うところだが、アルフリーダがやりたいことが多すぎて一緒にいても邪魔でしかないから任せているとエーヴェルトは周りに言っていた。
そもそも、そういうことをやるとなってもエーヴェルトは面倒がって、常識的なことすらしないのだ。少しでも常識があれば、招待状を送るのを面倒がって口頭で伝えようなんて思わないだろう。この性格は、シーグリッドと婚約する前からこうだった。彼の家族であるアーネル侯爵一家はよく知っているはずだが、アーネル侯爵夫妻はノータッチでいた。その方が、後々面倒にならないと思っていて、エーヴェルトと同じく面倒なことを率先してやりたくないだけだったりするのだが、そういう家族といるエーヴェルトの今の跡継ぎが一番大変な目にあっている。
それでも、一番の厄介者が結婚するのだからと思っていたが、どうにもやることなすことを耳にするたび、弟の方は不安しか感じていないようだが、アーネル侯爵夫妻も、エーヴェルトも、そこまでだとは思っていないようで頭を抱えたくなっていた。
それこそ、上手くいって面倒ごとから解放されたいような、それがシーグリッドの従姉との結婚に関わるとわかって複雑な気分になっていることにも、アーネル侯爵一家は気づいていなかったようだ。
それに比べて残念すぎるエーヴェルトは、ただの行き過ぎたケチな行動だとしたら、その方が納得してしまうほどだったが、エーヴェルトは自分の都合で、その場しのぎでしか動きはしなかった。
だが、これまでの子息の中で一番やりたいことを自由にやらせてくれる一番の理解者が、そんな子息だということにアルフリーダはまだ気づいていなかった。
そんなエーヴェルトは、急な呼び出しにまた決めることにあれこれどう思うかを聞かれるのかと思っていたが、元婚約者の名前を出されて間抜けな顔をした。エーヴェルトでも、その名前は覚えていた。姿形はとっくに忘れていたとしても、上手くいっていたら一番よかったと思う令嬢だったから記憶に残っていることをアルフリーダは知りもしなかった。
結婚式が数日後となっているため、エーヴェルトだけがアルフリーダのいる隣国に来ていた。両親や友達がいなくとも自分がいれば、とりあえず結婚式はできると思って、のんびりしていた。
それこそ、日付をエーヴェルトが家族に告げた時に騒いでいたが、彼はそれをまるっと無視した。何を言われても日程に変更はないだろうとエーヴェルトは、ここに来ていた。
そこで、アルフリーダに言われてやっと家族や数少ない友達が、何だかとんでもない顔をして自分を見ていた理由を知ることになった。あれは、呆れ果てすぎて奇妙なものを見る目をしていたのだ。
「そうよ! どうして、あの子と婚約破棄したって教えてくれなかったのよ!!」
「教えるも何も何年も前のことじゃないか」
もう既に終わったことだとエーヴェルトはげんなりした顔をしてアルフリーダに言った。
「数年前だから、いいってことはないでしょ!」
「だが、婚約破棄になった令嬢のことなんて一々あげていたらきりがないだろ」
「は? え、きりがない??」
エーヴェルトは、シーグリッドの後に数えていないが婚約が駄目になった令嬢たちがいるとケロッとした顔でアルフリーダに言った。
それをアルフリーダが、気になって詳しく聞けば……。
「嘘でしょ。そんなにいるの!?」
そんなに次々と婚約破棄となるような子息と結婚しようとしていることにアルフリーダはようやく気づくことになって、頭を抱えたくなった。
エーヴェルトは、馬鹿正直に答えてしまったが、結婚が終わった後で、バレるよりはいいと思ってのことだ。どうせ、調べればすぐにわかることでもある。そもそも、それを調べていないことにエーヴェルトは、それだけアルフリーダにも、彼女の両親にも気に入られていると思っていた。
そこにも勘違いが起こっていることに誰も気づいていなかった。
「信じられない!」
「そんなこと言われても、もう終わったことだ。それに君も婚約が何度か駄目になっていると聞いているが?」
「っ、それとこれは全然違うわ!」
アルフリーダは、一緒にされたくないと心外そうにしていた。
「そうか?」
「そうよ!」
「なら、何が全然違うか比べるから話して見てくれ」
「はぁ?! 嫌よ!」
アルフリーダは、何を言い出すんだとばかりにエーヴェルトを見た。
だが、しばらくして気になり出したアルフリーダはぽつりぽつりと話し始めた。
特にエーヴェルトは知りたくもなかったが、そういうことで同じだと印象付けたかった。そこに知っている名前が出てくるとは予想もしていなかった。エーヴェルトの方も、アルフリーダのことを調べもしなかった。ただ、彼女に他の兄弟姉妹がいないことだけは、よく知っていた。
「は? あいつと婚約していたのか?」
「そうだけど」
「……」
エーヴェルトは、知っている名前が出てきて眉を顰めた。
それは、アルフリーダの方も同じようなものだった。シーグリッドほどではないが、気に入らないと思っていた令嬢の名前が出てきて、それに心底嫌そうな顔をした。
お互いに覚えている限りの元婚約者の話をし終えた後は、不愉快そうにしていた。
エーヴェルトとしては、こんな予定ではなかったのだが、世間は全く広くなかったことを痛感していた。特に何とも思っていない人物ならよかったが、そうでない相手と破棄となっていることに複雑な気持ちが残ってしまった。
それだけ、似たりよったりだったようだ。それこそ、出会うべくして出会い行き着いた2人となっていた。
「アルフリーダ」
「何よ」
「こんなことしても、不愉快になるだけだったな」
「……そうね。所詮は、元婚約者だものね」
「そこだ。相手が見る目がなかっただけだ」
「そ、そうよね。元婚約者たちなんて、みんなそうよね!」
お互いに元婚約者に散々な目に合わされたとばかりにしていた。
この2人からしたら、そうだろうが元婚約者たちからしたら、散々な目に合わされたのは、この2人のせいだと力説していただろう。
シーグリッドも力説までいかずとも、アルフリーダのことを心配するくらいエーヴェルトと婚約しているだけでなく、結婚して大丈夫かと思うくらいの問題があることにアルフリーダは気づいていなかった。
もっとも、両方を知っているなら、それをお似合いだと思ってもいいところだが、シーグリッドはそんな令嬢ではなかった。従姉のことを気にかけていた。
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