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第2章
∞一3
しおりを挟むフェリシアが、アルセーヌの言葉に無意識に反応して涙している時にデュドネにいる聖女だと思われている方は……。
「大した物がないわね」
メーデイアは、本物の聖女だと思われてチヤホヤされることにすっかり天狗になっていた。
何かあっても、フェリシアのせいにして不満の全てを追放された偽者の聖女のせいにしたことで、何もしていないのに聖女だと思われて、各国からも自国からも優遇してもらおうと貢ぎ物が彼女に届けられて、王太子であり婚約者のシプリアンからも余所見をされたくないとばかりにご機嫌取りをされるのだ。
それが当たり前となりすぎたメーデイアは、すっかり図になっていて、わがまま放題な毎日を王宮で過ごしていた。
自分の世話をして媚を売る者たちも多くいたが、ちょっとでも気に入らなければ、そう言う者たちに八つ当たりして辞めさせてもいた。特に自分よりも、秀でている者や可愛らしかったり、美人だったりする者には何もしていなくても言いがかりをつけて辞めさせた。
「そんな! ここを辞めさせられたら、私、家から勘当させられてしいます!」
「そんなこと知らないわよ。目障りだわ。さっさと消えて」
「っ、」
縋り付く令嬢を何人、辞めさせたことか。その時に縋り付いて、どうにかして撤回してもらおうと土下座までする者たちをあざ笑い、それを見て楽しそうにしていた。
いつしか、メーデイアがすることなすことに物申す者はいなくなっていて、みんなびくびくしていた。
どんなに似合っていなくとも、似合っていると言い、メーデイアのご機嫌取りをする者たちは陰でメーデイアの悪口を言いあっていたが、そのうち相手を蹴落とすために密告しあい、それは酷いものになっていった。
そんな毎日を彼女たちはしているというのに家に帰れば、メーデイアに嫌われるなと家族からも色々言われ、不満の矛先はメーデイアにではなくて、こんなことになったフェリシアのせいになっていた。
「こんな目にあうのも、フェリシアのせいだわ」
「あの女が聖女を語ったりするから、私がこんな目にあうなんてあんまりだわ」
「さっさと消えてなくなってくれたらいいのに」
毎日、毎日、フェリシアのせいだと思う者は日増しに増え、やり直すたびにさらに増え続けた。
フェリシアが必死になって救おうとしていることなど、デュドネでただの1人として信じている者はいなかった。
ただ、こんな目にあっているのもメーデイアの機嫌を損なうことをした身の程知らずのフェリシアのせいにしてさえいれば、いいかのように何でもないことでも、都合が悪いことになれば、八つ当たりのようにフェリシアのせいにした。
そのたび、フェリシアが命をすり減らすことになり、それでも諦めずにデュドネにいる者たちから全てを自分が勘違いして、呪ってしまったことで、消えてなくなってしまうのをどうにかして正そうとしているフェリシアにとどめを刺し続けることをやめることはなかった。
そんなことになっていても、フェリシアは救える者なら救いたいとエイベルで眠り続けることになっても、アルセーヌに心配され続けても、それでも必死になって自分がしでかしたことをやり直そうとした。
でも、それをしようとすればするほどにフェリシアは眠り続ける期間が短くなって、そのたびアルセーヌがフェリシアを死なせたくなくてやり直すことになっていた。
アルセーヌが必死になって助けようとするのもフェリシアはわかっていたが、それでもフェリシアは生まれ変わって聖女となった責任を取るために救おうとすることをやめようとはしなかった。
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