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第2章

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フェリシアは眠ったまま、各国が偽者の聖女をどうにかしようとしたが、そこは力を取り戻した魔女だけあって手強かった。

あまりにも力が強いことから、こんなことを言う者が現れだした。


「彼女も、聖女なんじゃないか?」
「何を言ってるんだ。聖女は、フェリシア様に決まっている」


あまりにもしぶとくデュドネは、聖女だと自負しているメーデイアに守られるように存続し続けたことで、本物なのではないかと思う者も現れ始めていた。

眠り続けるフェリシアと各国の攻撃からデュドネを守り続けるように見えるメーデイア。それによって、凄い聖女はメーデイアだと思う人々は、こぞってデュドネに集まり出した。


「アルセーヌ。あなたも、少しは休んで」
「……養母様」
「そうよ。フェリシアちゃんが起きた時にそんなくたびれた格好を見たら千年の恋も覚めるわよ」
「っ、」
「ちょっと、アイネイアス。私の義息子よ? どんな格好してようとも、フェリシアちゃんが幻滅するなんてありえないわ」
「そうは思うけど、万が一ってことがあるじゃない」


2人の養母にアルセーヌは、苦笑してしまった。最低限なことしかせずにフェリシアの側に長くいることもあり、本当にフェリシアが目を覚ました時に愛想を尽かされそうだと思って、風呂に入って着替えも済ませた。

その間にデュドネにいる聖女こそ、本物に違いないとそれまで聖女をあまり信じていなかった連中が、こぞってそちらに向かって集結していることを耳にした。

何かしてくれている方が本物に見えたのだろう。

アルセーヌは、前世の時にもそんなことがあったなと遠い目をした。

それは、エイベルでもそう思う者がいたようだ。

だが、アルセーヌはあまりにもデュドネに何も起こらないことにあることが頭をよぎった。


「……もしかして、フェリシアがしているのか?」


ふと、アルセーヌはそんなことを思ったのだ。偽者の聖女のもとに都合の良い時だけ、聖女だと崇める面々が、続々と貢物を持ってデュドネに移住したいと王宮に殺到するようになったのも、その頃からだった。

それに気分をよくしたのは、誰でもないメーデイアだ。


「私が本物だって、ちゃんとわかってくれるんですね」


にこにこと機嫌よくしているメーデイア。その側には、王太子であり彼女の婚約者のシプリアンがいた。


「当然の結果だな。メーデイアが、正真正銘の聖女なんだ。あの女は、眠ったままだそうではないか。全く、さっさと消えてなくなればいいものを」


シプリアンは、元婚約者のフェリシアのことを日に何度も罵っていた。他の者もそうだ。デュドネを責め立てている各国も、フェリシアに騙されているのだと憤っていた。

それにメーデイアはニタァ~と笑っていた。周りに誰もいなくなるとほくそ笑んでいた。


「あの女は、本物かもしれないけど、私をどうこうできるほどの力はないみたいね。ふん、私に謝罪してれば、眠ったままなんかにならずに済んだでしょうに。馬鹿な女がいたものだわ」


メーデイアは、フェリシアは自分に敗れたから眠ったままで目を覚まさないのだと思っていたが、実際は違う。

フェリシアが、必死になっているからこそ、デュドネは未だに存在し続けているに過ぎないだけだが、メーデイアは自分の力だと思っていた。

何度となく、フェリシアはデュドネから出ることなく、どす黒いものに飲み込まれた。それは、とっくにフェリシアと一緒にいられなくなって、デュドネの人々の心の中に住み着いていた。

聖女のおかげで、今があるのに。それすら忘れ、都合の良い時だけ崇め奉るだけの人々。

そんな人たちが、続々とデュドネに集まり、メーデイアを気に入っておこぼれに預かろうと必死になって媚を売っては、メーデイアをチヤホヤしていた。

そんな毎日にどす黒いものは、人々の心の中で大きくなり始めていた。

でも、メーデイアは図になっていて、それに全く気づいていなかった。デュドネが少しずつ、少しずつ、取り返しのつかない程に蝕まれていっていた。

それは、メーデイアにとっては居心地の良いものでしかなかった。清らかな中よりも、断然よかったが、その度が日増しになっていくのが止まらなくなるとは思ってもみなかった。


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