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第2章

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(アルセーヌの前世の視点)

聖女として召喚された日は、私にとって人生で待ちわびた日になるはずだった。

あの人の妻になることが、嬉しくて仕方がなかった。控室でウェディングドレスを着て、誓いを立てることが待ち遠しかった。

なのにその時は永遠に訪れはしなかったのだ。

不意に彼に呼ばれた気がしたのだ。


「はい?」


この控室に来るわけがないのに。聞こえるはずもない声音で、名前を呼ばれた気がして返事をしてしまったのだ。

あれが、いけなかったのだ。


「え……?」
「聖女様! 良かった。お待ちしていました。どうか、この世界をお救い下さい」
「世界??」


気づいたら知らないところに立っていて、そんなことを言われていた。


「そんな、私、聖女じゃないです。私、戻らないと。今すぐ帰して下さい!」
「申し訳ありませんが、それはできません」
「っ、」
「ですが、世界を救ってくださるなら、その方法を探します」


世界を救えば帰れると思っていたが、それもできないと言われてしまった。


「そんな、聖女となって世界を救えば、方法を探してくれるって言ったじゃないですか!」
「探しはしましたよ。でも、見つからなかったんです」
「っ、」


ずっと胡散臭いと思っていた人と婚約することになり、あっという間に結婚することになって、どれほど傷ついていたかわからない。

そもそも、探してくれたのかも怪しかった。元々、救わせたら利用価値があると思っていたようだし、救えなければ騙されていたとして、殺されていた気がした。どっちにしろ。その男の手のひらで転がされていたのだ。

そんな私は毎日、毎日祈っていた。一目でいいから、最愛の人に会いたいと願ってやまなかった。

生まれ変わって会えたらいいと願ってもいた。

まさか、その願いによってなのかはわからないが、彼がこの世界にやって来ていたとは知りもしなかった。

彼の方が、何倍も歳を取っていて、それでもなお会いたい一心で、ここに来ていたことも知らなかった。

そして、夫となった公爵が彼を邪魔者と判断して殺していたことにも気づいてはいなかった。

そんな私は、歳月が過ぎていくとこう思うようになっていた。

生まれ変わることができたら、そこで彼に会いたいと願ってやまなかった。

聖女には二度となりたくないとも思っていた。そのせいか、生まれ変わったら性別が変わっていたのにびっくりした。前世の記憶なんて忘れて生まれてくるはずが、前世のことを忘れることなく生まれたことで、ようやく見つけたようなものだった。

かつて、愛してやまない最愛な人を。生まれ変わったら、お互いの性別が逆転していて彼、じゃない。彼女は、聖女を毛嫌いしていた。そして、聖女を祀り上げる人たちも嫌っていた。

すっかり変わってしまったのかと思えば、そんなことはなかった。

そんな彼女を見ていたくなくて、自分の前でだけは束の間でもいいから、聖女を悪く心の中で思わないようにしてもらった。

するとそれをきっかけにするかのようして、彼女は王太子の婚約者となり、気づけば私はお荷物状態となっていた。

……いや、お荷物なのは前々からだったが、輪をかけて、家族に疎まれることなった。それが目に余ることになって、彼女に婚約者ができたのも見たのだからと養子となることを選んで引き下がることにした。

それこそ、病弱となって生まれたのも、この世界に前世で好きだった人を呼んだ罰のようなものと思っていたが、それも勘違いだったようだ。

聖女となって生まれ変わることになった彼女の呪いが強すぎたからだったようだが、それを咎める気は全くなかった。

それどころか。あの国から出て行くように仕向けたかったようだ。

でも、そうさせてしまった原因が少なからず自分にもある。それがわかって、眠り続ける幼なじみであり、やっと会えた愛しい人が死にかけているのを見て、何もせずにはいられなかった。

何の恨みもないわけではない。自称聖女のせいで、彼女は王太子との婚約が破棄され、勘当されることになり、国外追放されるまでになったのだ。

召喚された証明もなければ、後見人すらいないのに世界の危機でもないのにどこからともなく現れた存在のせいにしてでも、今度こそ彼女と幸せになりたいと願わずにはいられなかった。

それができないのなら、一緒に元いた世界に帰ってやり直したいと思ってしまったが、そんなことは無理だろう。


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