44 / 57
第2章
0一2
しおりを挟む
(アルセーヌの前世の視点)
聖女として召喚された日は、私にとって人生で待ちわびた日になるはずだった。
あの人の妻になることが、嬉しくて仕方がなかった。控室でウェディングドレスを着て、誓いを立てることが待ち遠しかった。
なのにその時は永遠に訪れはしなかったのだ。
不意に彼に呼ばれた気がしたのだ。
「はい?」
この控室に来るわけがないのに。聞こえるはずもない声音で、名前を呼ばれた気がして返事をしてしまったのだ。
あれが、いけなかったのだ。
「え……?」
「聖女様! 良かった。お待ちしていました。どうか、この世界をお救い下さい」
「世界??」
気づいたら知らないところに立っていて、そんなことを言われていた。
「そんな、私、聖女じゃないです。私、戻らないと。今すぐ帰して下さい!」
「申し訳ありませんが、それはできません」
「っ、」
「ですが、世界を救ってくださるなら、その方法を探します」
世界を救えば帰れると思っていたが、それもできないと言われてしまった。
「そんな、聖女となって世界を救えば、方法を探してくれるって言ったじゃないですか!」
「探しはしましたよ。でも、見つからなかったんです」
「っ、」
ずっと胡散臭いと思っていた人と婚約することになり、あっという間に結婚することになって、どれほど傷ついていたかわからない。
そもそも、探してくれたのかも怪しかった。元々、救わせたら利用価値があると思っていたようだし、救えなければ騙されていたとして、殺されていた気がした。どっちにしろ。その男の手のひらで転がされていたのだ。
そんな私は毎日、毎日祈っていた。一目でいいから、最愛の人に会いたいと願ってやまなかった。
生まれ変わって会えたらいいと願ってもいた。
まさか、その願いによってなのかはわからないが、彼がこの世界にやって来ていたとは知りもしなかった。
彼の方が、何倍も歳を取っていて、それでもなお会いたい一心で、ここに来ていたことも知らなかった。
そして、夫となった公爵が彼を邪魔者と判断して殺していたことにも気づいてはいなかった。
そんな私は、歳月が過ぎていくとこう思うようになっていた。
生まれ変わることができたら、そこで彼に会いたいと願ってやまなかった。
聖女には二度となりたくないとも思っていた。そのせいか、生まれ変わったら性別が変わっていたのにびっくりした。前世の記憶なんて忘れて生まれてくるはずが、前世のことを忘れることなく生まれたことで、ようやく見つけたようなものだった。
かつて、愛してやまない最愛な人を。生まれ変わったら、お互いの性別が逆転していて彼、じゃない。彼女は、聖女を毛嫌いしていた。そして、聖女を祀り上げる人たちも嫌っていた。
すっかり変わってしまったのかと思えば、そんなことはなかった。
そんな彼女を見ていたくなくて、自分の前でだけは束の間でもいいから、聖女を悪く心の中で思わないようにしてもらった。
するとそれをきっかけにするかのようして、彼女は王太子の婚約者となり、気づけば私はお荷物状態となっていた。
……いや、お荷物なのは前々からだったが、輪をかけて、家族に疎まれることなった。それが目に余ることになって、彼女に婚約者ができたのも見たのだからと養子となることを選んで引き下がることにした。
それこそ、病弱となって生まれたのも、この世界に前世で好きだった人を呼んだ罰のようなものと思っていたが、それも勘違いだったようだ。
聖女となって生まれ変わることになった彼女の呪いが強すぎたからだったようだが、それを咎める気は全くなかった。
それどころか。あの国から出て行くように仕向けたかったようだ。
でも、そうさせてしまった原因が少なからず自分にもある。それがわかって、眠り続ける幼なじみであり、やっと会えた愛しい人が死にかけているのを見て、何もせずにはいられなかった。
何の恨みもないわけではない。自称聖女のせいで、彼女は王太子との婚約が破棄され、勘当されることになり、国外追放されるまでになったのだ。
召喚された証明もなければ、後見人すらいないのに世界の危機でもないのにどこからともなく現れた存在のせいにしてでも、今度こそ彼女と幸せになりたいと願わずにはいられなかった。
それができないのなら、一緒に元いた世界に帰ってやり直したいと思ってしまったが、そんなことは無理だろう。
聖女として召喚された日は、私にとって人生で待ちわびた日になるはずだった。
あの人の妻になることが、嬉しくて仕方がなかった。控室でウェディングドレスを着て、誓いを立てることが待ち遠しかった。
なのにその時は永遠に訪れはしなかったのだ。
不意に彼に呼ばれた気がしたのだ。
「はい?」
この控室に来るわけがないのに。聞こえるはずもない声音で、名前を呼ばれた気がして返事をしてしまったのだ。
あれが、いけなかったのだ。
「え……?」
「聖女様! 良かった。お待ちしていました。どうか、この世界をお救い下さい」
「世界??」
気づいたら知らないところに立っていて、そんなことを言われていた。
「そんな、私、聖女じゃないです。私、戻らないと。今すぐ帰して下さい!」
「申し訳ありませんが、それはできません」
「っ、」
「ですが、世界を救ってくださるなら、その方法を探します」
世界を救えば帰れると思っていたが、それもできないと言われてしまった。
「そんな、聖女となって世界を救えば、方法を探してくれるって言ったじゃないですか!」
「探しはしましたよ。でも、見つからなかったんです」
「っ、」
ずっと胡散臭いと思っていた人と婚約することになり、あっという間に結婚することになって、どれほど傷ついていたかわからない。
そもそも、探してくれたのかも怪しかった。元々、救わせたら利用価値があると思っていたようだし、救えなければ騙されていたとして、殺されていた気がした。どっちにしろ。その男の手のひらで転がされていたのだ。
そんな私は毎日、毎日祈っていた。一目でいいから、最愛の人に会いたいと願ってやまなかった。
生まれ変わって会えたらいいと願ってもいた。
まさか、その願いによってなのかはわからないが、彼がこの世界にやって来ていたとは知りもしなかった。
彼の方が、何倍も歳を取っていて、それでもなお会いたい一心で、ここに来ていたことも知らなかった。
そして、夫となった公爵が彼を邪魔者と判断して殺していたことにも気づいてはいなかった。
そんな私は、歳月が過ぎていくとこう思うようになっていた。
生まれ変わることができたら、そこで彼に会いたいと願ってやまなかった。
聖女には二度となりたくないとも思っていた。そのせいか、生まれ変わったら性別が変わっていたのにびっくりした。前世の記憶なんて忘れて生まれてくるはずが、前世のことを忘れることなく生まれたことで、ようやく見つけたようなものだった。
かつて、愛してやまない最愛な人を。生まれ変わったら、お互いの性別が逆転していて彼、じゃない。彼女は、聖女を毛嫌いしていた。そして、聖女を祀り上げる人たちも嫌っていた。
すっかり変わってしまったのかと思えば、そんなことはなかった。
そんな彼女を見ていたくなくて、自分の前でだけは束の間でもいいから、聖女を悪く心の中で思わないようにしてもらった。
するとそれをきっかけにするかのようして、彼女は王太子の婚約者となり、気づけば私はお荷物状態となっていた。
……いや、お荷物なのは前々からだったが、輪をかけて、家族に疎まれることなった。それが目に余ることになって、彼女に婚約者ができたのも見たのだからと養子となることを選んで引き下がることにした。
それこそ、病弱となって生まれたのも、この世界に前世で好きだった人を呼んだ罰のようなものと思っていたが、それも勘違いだったようだ。
聖女となって生まれ変わることになった彼女の呪いが強すぎたからだったようだが、それを咎める気は全くなかった。
それどころか。あの国から出て行くように仕向けたかったようだ。
でも、そうさせてしまった原因が少なからず自分にもある。それがわかって、眠り続ける幼なじみであり、やっと会えた愛しい人が死にかけているのを見て、何もせずにはいられなかった。
何の恨みもないわけではない。自称聖女のせいで、彼女は王太子との婚約が破棄され、勘当されることになり、国外追放されるまでになったのだ。
召喚された証明もなければ、後見人すらいないのに世界の危機でもないのにどこからともなく現れた存在のせいにしてでも、今度こそ彼女と幸せになりたいと願わずにはいられなかった。
それができないのなら、一緒に元いた世界に帰ってやり直したいと思ってしまったが、そんなことは無理だろう。
29
お気に入りに追加
309
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄にて奴隷生活から解放されたので、もう貴方の面倒は見ませんよ?
かのん
恋愛
ℌot ランキング乗ることができました! ありがとうございます!
婚約相手から奴隷のような扱いを受けていた伯爵令嬢のミリー。第二王子の婚約破棄の流れで、大嫌いな婚約者のエレンから婚約破棄を言い渡される。
婚約者という奴隷生活からの解放に、ミリーは歓喜した。その上、憧れの存在であるトーマス公爵に助けられて~。
婚約破棄によって奴隷生活から解放されたミリーはもう、元婚約者の面倒はみません!
4月1日より毎日更新していきます。およそ、十何話で完結予定。内容はないので、それでも良い方は読んでいただけたら嬉しいです。
作者 かのん
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】聖女の妊娠で王子と婚約破棄することになりました。私の場所だった王子の隣は聖女様のものに変わるそうです。
五月ふう
恋愛
「聖女が妊娠したから、私とは婚約破棄?!冗談じゃないわよ!!」
私は10歳の時から王子アトラスの婚約者だった。立派な王妃になるために、今までずっと頑張ってきたのだ。今更婚約破棄なんて、認められるわけないのに。
「残念だがもう決まったことさ。」
アトラスはもう私を見てはいなかった。
「けど、あの聖女って、元々貴方の愛人でしょうー??!絶対におかしいわ!!」
私は絶対に認めない。なぜ私が城を追い出され、あの女が王妃になるの?
まさか"聖女"に王妃の座を奪われるなんて思わなかったわーー。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~
白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」
……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。
しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。
何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。
少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。
つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!!
しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。
これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。
運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。
これは……使える!
だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で……
・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。
・お気に入り登録、ありがとうございます!
・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします!
・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!!
・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!!
・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます!
・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!!
・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる