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第2章

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フェリシアが聖女だと通達が来てから、すぐさまシプリアンが父である国王から、エイベルに対して言いがかりも甚だしいと抗議してもらったのは、すぐだった。

その知らせは、すぐにエイベルに届いていた。


「デュドネが、こちらに抗議して来ている」
「……つまり、どうあっても、あちらにいるのが本物だと?」


アルセーヌは、フェリシアが倒れてからずっと彼女の側にいたが、エイベルの第二王子がやって来た時は渋々、フェリシアの側を離れた。

第二王子は、祖国に聖女が現れたことに喜んでいられない状況にいつもの軽口は、なりをひそめていた。

それにアルセーヌだ。冗談を言っている余裕は全くないように見えたのも大きかった。


「そう言いたいようだ。支離滅裂な部分が多いが、そう言うことだろう。それこそ、あちらからは、通達もなければ、後見人もいない。神官の証明もない。自称聖女とあちらの王太子は婚約しているようだが、本人が聖女だと言っているから聖女で間違いないと言いたいらしい」
「……」
「以前会った彼からは想像できないが、今の彼は相当なまでに残念に仕上がっているようだ」


第二王子は、眠り続けているフェリシアの顔を見たかったが、聖女となった彼女に以前のように王子とはいえ、気軽に会えはしなかった。

それにどうしていると聞ける雰囲気でもなかった。アルセーヌを見れば、未だに目を覚ましていないのは明らかだ。それに知らせは、すぐに王宮に届くため、王子が知らないなんてことはなかった。


「だが、本物の聖女に害をなす存在なら、この国も、他の国も、デュドネに攻め入ってでも自称聖女を排除することに各国と話がついている」
「できるだけ、死者を出さないで下さい。聖女のために死者が出るのは、フェリシアが目覚めた時に知れば悲しむ。彼女は、そんなことを望む女性ではありません」
「わかっている。あちらも、ちゃんと手順を踏んでくれさえすればいいんだ。ぶっちゃけ、聖女に拘らずに一般人と一緒になりたいなら、身分を返上して庶民として暮らせばいいとすら思うが、あちらの偽者は聖女に拘っているようだから仕方がない」


アルセーヌは、王子が言わんとすることもなかったが、偽者のことなんて、どうでもよかった。

ただ、フェリシアが目を覚ますことだけが望みだった。前世のことがあって、聖女という存在を物凄く憎んでしまっていたことで、大きくなりすぎた呪いを自分の責任だからとどうにかしようとしているのだ。

それをしていることで、偽者の聖女だけでなくて、聖女を欠片も信じていない者たちまで助かっているような状況に苛立ってもいた。

それをアルセーヌが言葉にすることはなかったが、みんなフェリシアのことで気が立っていると思っていた。

それは、目の前にいる第二王子も同じだった。彼は、すぐさま王宮に戻って行った。


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