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第2章
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しおりを挟む少しづつ記憶を塗り替えて、メーデイアが聖女として召喚されたことにするなんて、力を取り戻した彼女には造作もないことだった。
なにせ、デュドネでは聖女を信じていると馬鹿にされるのだ。聖女の血を引く一族がいるというのに笑えてならなかった。
デュドネという国は、まさにメーデイアのためにあるかのようだった。
「私のためにあるような国だわ!」
その中で、フェリシアだけが記憶を塗り替えられなかったのだ。プライドの高いメーデイアは、魔女の力を完全に取り戻したはずなのに術が全く効かないフェリシアに苛つき始めるのは、すぐだった。
「たかが人間が、忌々しい。それにあの顔が何より気に入らないわ。よく見れば、あの女にそっくりじゃない」
人間ごときに馬鹿にされるのは、我慢ならなかったのもあった。何より、フェリシアの顔がいけ好かなかった。
メーデイアが追放された世界で、出会った女にそっくりだった。屈辱的な日々の中で、あの女はメーデイアに何かと話しかけて来ては、何が楽しいのか笑っていた。
「あの自分は幸せなんですって顔が嫌いだったのよね」
だから、相思相愛でお似合いだという相手と結婚すると知って、それを邪魔してやろうとした。せっかく戻り始めた力を使って、召喚が失敗しそうなのを手助けしてやったのだ。
「召喚されるのを拒否しようなんてする女を初めて見たのよね。聖女の癖に役目を拒否しようとして、自分だけ幸せになろうなんて最低最悪もいいところ。私が手を貸してなきゃ、召喚に失敗して、その世界なんてとっくになくなっていたはずだもの。感謝してるはずよ」
メーデイアは、そんな風に思っていたが、それがこの世界のことだとは思ってもみなかったし、フェリシアが似ている女が、この世界を救った聖女だとも知りもしなかった。
それにメーデイアの手助けによって召喚されることになった聖女を追いかけて、結婚するはずだった男が命懸けでこの世界に来たことも、それがどんな悲劇を生み出したかも知りもしなかった。
ただ、いいことをしたと思っていた。
更には似ていることがいけ好かないというだけで、フェリシアを追いやることにしたのは、そういうことも関係していた。
王太子を奪い、家族や周りの全てを奪い、フェリシアがメーデイアを意地悪いことばかりする悪女に仕立てあげて、記憶をそういう風に書き換えたのだ。
全てが上手くいって、フェリシアは婚約破棄となり、勘当され、国から追放されたことになり、絶望に歪んで出て行くのをメーデイアはいい気味だと見ていた。
そして、すぐさまシプリアンと婚約してメーデイアは悠々自適な自堕落な生活を送っていた。
メーデイアは、全く気づいていなかった。フェリシアを追い出そうとするたび、この国がどす黒いものに飲み込まれて、そのたび終わっていることを。
追い出した人物が、前世からの呪いに苛まれ、それでも生まれ変わったことで、この世界の聖女となり、今まさに世界を救おうとしていることに欠片も気づいていなかった。
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