突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら

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第2章

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その知らせがデュドネに届いたのは、割とすぐのことだった。

まだ、国の伝達が麻痺してはいなかったようだ。


「本物の聖女が、偽者の聖女によって死にかけている……? なんですか。これは?」
「うむ。我が国に聖女が既にいるのを知らぬようだ」
「知らないからと言って、嘘を広めるとは許しがたい」


王宮ではふざけたことを言っていると思って怒っている者ばかりだった。


「馬鹿な。世界で、聖女が二人も存在するわけがない」


その知らせが届いてすぐに馬鹿にしてもいた。

シプリアンは、フェリシアとの婚約を破棄して、すぐにメーデイアと婚約をしていた。

聖女が現れたという知らせが、そんな2人のところにも届いたのは、すぐのことだった。


「何だと? どうして、聖女が現れた知らせが入るんだ? 既にメーデイアがいるというのに」


王太子は、知らせを持って来た神官に怪訝な顔をした。


「各国にメーデイアが聖女として召喚されたと通達したのだろう?」
「え? いえ、それは……」


神官は、なぜか言い淀んだ。それにシプリアンは、眉を顰めた。


「してないのか?」
「するも、何も、その、メーデイア様には後見人がそもそもいらっしゃいませんよね? 召喚されたとされる神官の証明もありませんし……」


シプリアンは、そんなわけがあるかと神官たちを見渡したが、自分たちは召喚した時にはいなかったと首を横に振る者ばかりだった。

それにシプリアンは、そんな馬鹿なことがあるかと言葉を続けた。


「は? そんなわけが……。あれ? メーデイア。君は、いつ、どうやって召喚されたんだ?」
「やだなぁ~。数ヶ月前のことじゃないですか」


メーデイアは、贅を尽くしたドレスを着て、ケロッと答えていた。ドレスだけではない。身に付けている宝石も、品の欠片もないものをつけていた。


「そ、そうだな。あー、偽者は、通達をしてきた国の方だ。そうに決まっている。全く、メーデイアを偽者扱いするなんて、すぐに父上に抗議してもらわなければ」


シプリアンは、怒りながら部屋を出て行った。その後ろを神官たちは首を傾げながら追いかけて行った。それをメーデイアは、よくわからない顔をして見送った。

そして、部屋に自分1人になると可愛らしい顔を不愉快そうに歪ませた。


「後見人って、何? 召喚した神官の証明?? そんなの初めて聞いたんですけど」


残されたメーデイアは、面倒くさそうな顔をして眉を顰めた。


「まずいわね。この国以外は、聖女信仰が凄いから偽者だって、バレちゃうわ。邪魔な女を追い出せたから、もう邪魔してくる奴なんて現れないと思っていたのに。何なのよ。面倒くさいわね」


メーデイアは、召喚されてやって来た聖女ではなかった。召喚されもしないのにやって来たのだ。別の世界からやって来た力を取り戻した魔女だ。

聖女によって世界から追放されたメーデイアは、人間しかいない世界に飛ばされて、魔女としての力を失ったことで人間に紛れて暮らすしかなかった。

そこで、メーデイアは人間のように生き続けた。それは屈辱的な日々だった。思い出すだけで忌々しい日々だった。

いつか、聖女を欠片も信じていない国を見つけて、聖女に成り代わって贅沢三昧な日々を送ってやろうと思って生き続けた。

そして力を取り戻すために人間たちしかいない世界で、ありとあらゆる悪行を重ねて、やっと力を取り戻すことができたのだ。

おあつらえ向きなこの世界に来たのは、大博打だったが、魔女なメーデイアにとって大当たりなところだった。


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