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第2章
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しおりを挟むアルセーヌの養母が言っていた通りにフェリシアの遠縁にあたる女性は、フェリシアの書いた手紙を養母から受け取り、事情を知るなりすっ飛んで来てくれた。ありがたいと同時に申し訳ない気持ちも大きかった。
彼女の名前は、アイネイアス・グレンヴィル。父方の遠縁で、聖女の血筋なせいか。フェリシアに似ていた。
「あなたが、フェリシアちゃんね」
彼女もまた、フェリシアに似ている面影を見たようで、フェリシアの話を聞いて泣いていた。
どうやら、数年前に娘を亡くしているらしく、フェリシアを見て娘が戻って来たかのような錯覚を覚えたようだ。
(娘さんを思い出させてしまったってことね)
フェリシアは、益々申し訳ない気持ちになっていた。
「不思議ね。そうして並んでいると母娘に見えるわ」
アルセーヌの養母は、フェリシアとアイネイアスを見てしみじみと言った。
「私もよ。この手紙の筆跡を見た時にあの子が、戻って来たと思ったくらいだもの。そしたら、居ても立ってもいられなくなって、ここに来ていた」
そう言ってフェリシアを見た。
「でも、あの子は旦那様に似ていて、私にはちっとも似てはいなかったのよ」
「……」
筆跡だけしか似てはいなかったようだが、亡くなった令嬢は旦那に似て、ちょっとゴツかったようだ。
(これは、どう反応するのがいいんだろう??)
フェリシアだけでなくて、アルセーヌの養母も、アイネイアスの話に何とも言えない顔をしていた。
アイネイアスは、自分にそっくりなフェリシアをすぐさま気に入ってくれて、旦那に話すなり、すぐに迎え入れる準備をしてくれた。
「初めまして、フェリシアと申します」
「……サイラス・グレンヴィルだ」
アイネイアスが、連れて来た旦那は本当に体格よくてゴツかった。
(この方に似た令嬢だったのね)
フェリシアは、何とも言えない顔をしてサイラスを見つめた。無愛想で、体格がいいため、かなり怖そうに見えたが、フェリシアはここまで体格のいい男性を見たことがなかったため、それに驚いても怖いと思うことはなかった。
怖い目になら、散々あってきた。見た目なんて関係ない。言葉や態度で、誰の味方も得られずに1人で言われ放題な日々を長らく過ごしていたのだ。
見つめられる程度で怖いなんてことを感じることはなかった。
「……美しいな」
「え?」
横に妻がいるのに何を言うんだとフェリシアは思ったが、それには続きがあった。
「アイネイアスの若い頃によく似ている」
まじまじと見つめられて、サイラスは口元を綻ばせた。
(若い頃)
そこで反応するわけにもいかずにフェリシアは黙っていた。さらなる続きがなくては困る。
アイネイアスが何やら期待に満ちたような顔をしているのが見えていたこともあり、フェリシアが思っている方向にはいかないとは思っていた。
「今も美しいが」
「……」
アイネイアスは、そんな旦那に照れたようで、サイラスの背中を叩いていたが、サイラスは微動だにしていなかった。
(えっと、これは惚気られてるの?? ……というか。凄い叩かれるのに嬉しそうに見えるのは気のせいではないわよね?)
照れる妻が可愛くて仕方がないようにフェリシアには見えてならなかった。
アイネイアスだけでなくて、彼女の夫もフェリシアを一目見ただけで気に入ったらしく、すぐさま養子にしてくれた。
フェリシアが新しい家族を得ることになるまで、大した時間はかからなかった。
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