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第2章

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フェリシアを連れて戻ったアルセーヌに彼の養父母となった叔父でありヴォルディアノヴァ夫妻は、あまり驚いてはいなかった。もしかするとアルセーヌがフェリシアを連れて戻って来ることになることを予測していたのかも知れない。

ただ、やつれた姿をしたフェリシアがアルセーヌに支えられながら馬車から降りて来たのを見て、目を見開いてつらそうにしたのを見た。

そんな表情をしてくれることにフェリシアは、こんなことを思ってしまった。


(そんな顔、実母ですらしてくれたことがなかったわ。私が無駄に頑丈だから心配無用だって思っているにしても、普通はそういう顔をしてくれるものなのよね。それにしても、その顔はアルセーヌによく似ているわ。……実のご両親と並んでいるより、こうして並んでいる方が、親子に見えるわ)


そんなことを思ってフェリシアは、血の繋がりが目に見えて、その姿と自分を心配してくれる姿を見ただけで、幼なじみがここで大事にされていることがよくわかって嬉しく思えて、それだけで感無量になって泣きそうになっていた。

それに気づいていないわけがないが、アルセーヌは平然としていた。


「養父母様、ただいま戻りました。こちらは、私の幼なじみのフェリシアです。フェリシア、私の養父母だ」
「お帰り。フェリシア嬢も、よく来た」
「初めまして、突然おしかけてしまい申し訳ありません」
「構わないよ。アルセーヌから、色々と聞いているからね。疲れただろう。まずは、ゆっくり休んでくれ」


フェリシアは、思わずアルセーヌを見た。彼はその視線にすぐに頷いて、養父に頼んでくれた。その辺は幼なじみだけあって、言葉にしなくともアルセーヌはわかってくれた。


(昔から、そうだったわ。私が一番したいことをやらせてくれる。それは、どんなに離れて暮らしていても、こうして久方ぶりに会っても、何も変わっていない)


今のままでは休むに休めない。休む前に済ませたいことがあるフェリシアを瞬時に理解してくれたのは、アルセーヌだった。


「養父様。ゆっくりする前にフェリシアの話を聞いてもらえませんか? 彼女、婚約破棄されて、勘当された挙げ句、国外追放にされてしまったんです」
「……とんでもないことになったようだな。わかった。話を聞こう」


こうして、アルセーヌには掻い摘んで話した部分も詳しく話すことになったフェリシアは、殺気立つ幼なじみを宥めながら、彼の養父母に話すことになった。馬車の中でもしたが、その時よりも殺気が凄まじいものがあった。

フェリシアが、腕を掴まえていなければ、今にもデュドネに引き返して、元婚約者や父、兄をふっとばしてしまいそうになっていた。


(そんな暴力に訴えるアルセーヌを見たくない。この手を血に染める姿なんて見たくもない。私のせいで
、そんなことになったら耐えられない)


そんなことを思っていると養父は首を傾げていた。


「聖女の召喚に成功したなんて、一大時ニュースは、こちらには届いていないんだがな」
「え?」


(一大ニュース。まぁ、この国では、そう呼んだも不思議ではないわよね)


デュドネで生まれ育ったことも大きいのか。まだ、慣れない部分がフェリシアにはあった。

そういうことをしなくてはならないらしいが、王太子の婚約者となってかなりになるが、そんなことをお妃教育の中でも習ったことがなかったのだ。

本当に聖女に関しての部分は、あの国ではおざなりになっていたようだ。


「そもそも、危機なんて起こってもいないのに聖女を召喚しようとするはずがありません。召喚するには、各国に通達することになっているのにそんな話も聞いてはいませんよ」


(通達……? そんなことするの。知らなかった)


それが、未だにエイベルにはなされていないらしいことはわかったが、他の国にはあったかもしれないと調べてくれたが、やはり通達はないようだとなるのも、すぐだった。

そうなるとデュドネで聖女として騒がれている女性が本物とは思えないと言い出したのだ。


(まぁ、そうなるわよね。私も、怪しさしかないと思っていたのよね)


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