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第1章
2一16
しおりを挟む必死になって早くデュドネ~出なければと思いながら歩いている途中で、幼なじみのアルセーヌと会うことになった。
「フェリシア?」
「っ、」
散々に言われ続けたせいで、フェリシアは思わず名前を呼ばれて身構えてしまっていた。条件反射とは恐ろしいものだ。懐かしい声なのに油断できないと思ってしまってのことだ。
(前世では、油断していたところを殺されたのよね。油断しているつもりはないけど、でもここに幼なじみがいるわけない。都合のいい幻聴に決まってる)
フェリシアは、そんなことを思っていた。弱りきっている時に聞きたい声が聞こえるようになったのは危ない傾向だと思ってもいた。
「一人なのか?」
「アルセーヌ……?」
彼は、フェリシアからの手紙で胸騒ぎを覚えて、デュドネに入った辺りで様子を見ていたようだ。
第二王子は、流石に一緒ではなかったようで、馬車にはいなかった。
(本物、なの?)
「どうした? なぜ、1人でこんなところを歩いているんだ?」
「アルセーヌ。私を国外に連れ出して!」
「え?」
「婚約を破棄されて、国外追放にされたの」
「っ!?」
「早く出て行かないと私……、私、また、殺されてしまう」
「また……?」
「もう、殺されたくない。助けて!」
フェリシアは、前世と今が、ごちゃまぜになっていて、泣きじゃくりながら懇願していた。
その中には、どす黒い感情に飲み込まれて終わるのも紛れていた。いつも、この国から出られずに終わってはやり直してばかりいたのだが、それをフェリシアは覚えていないはずなのに恐怖していた。
「わかった。フェリシア、早く乗って。すぐに家に戻る」
「わかりました」
馬車にフェリシアを乗せて、そう声をかけた。
馬車の中でフェリシアは、アルセーヌに何があったかを話した。ついさっき婚約破棄となり、勘当され、国外追放にまでなったことを知るやいなやアルセーヌは激怒していた。その上、やってもいないことに謝罪しろというのを聞いて、彼は見たことないほど怒り狂っていた。
(こんなに怒っているのを初めて見たわ。アルセーヌでも、怒れるのね)
妙な感心をフェリシアはしていた。しかも、フェリシアのために怒る姿が彼らしいとも思っていた。
「……養父上たちに事情を話す。二人とも、フェリシアのことを心配していた。あの国のようには、ならないはずだ」
「?」
「デュドネのように恩知らずな生き方をエイベルでは誰もしていない」
「??」
「それより、フェリシア。手紙にあったが、君も前世を思い出したというのは、本当なんだな?」
「……君も?」
「僕は、生まれた時からある」
「え? そうなの?」
「僕は、前世で聖女だった」
「は?」
そんな言葉を聞くことになるとは思わなかったフェリシアは、間抜けな顔をしてしまった。探してでも会いたいと思っていた人物にとっくに会っていたことにフェリシアは驚きすぎて固まっていた。
(こんなことってあるの……?)
「フェリシア。君は、聖女となった僕を……いや、前世の僕を追いかけて来てくれたのか?」
「あなたが、私の唯一の人なの?」
どうやらフェリシアたちは生まれ変わって、性別が入れ替わることになったようだ。その辺に何があったのかはわからないが、同性になっていないことにどこかホッともしていた。
「君は、こっちに来て殺されたのか?」
「……聖女を追いかけて来たことを教えたのがまずかったのよ。聖女は用無しに見えて、利用価値があったから、あのまま私が聖女に会ってしまっていたら、今のフェリシアは存在していなかったはずだもの」
「それは、どういう意味だ?」
「私を殺したのは、ううん。前世の私を殺したのは、前世であなたの夫となった公爵なのよ」
「っ!?」
(聖女への恨みは、その夫となったあの男に殺されることになったことへの怒りもあったのかも知れないわね)
そんな話をしている間にアルセーヌの養父母の家に到着した。
フェリシアのみならず、アルセーヌも衝撃的な過去を知ることになり、呆然としながら馬車から降りることになって出迎えに出て来たアルセーヌの叔父夫妻を更に心配させるには十分すぎた。
フェリシアの顔色が、デュドネを出た時よりあまりよくなかった。
(聖女に出会えたのを喜んでいいのよね……?)
可愛らしい聖女の面影は今世のアルセーヌには幼い頃には確かにあった。でも今は全くない。成長したことで、美丈夫になってイケメンとなったアルセーヌがいた。
そして、かつての聖女に似ているのは血筋としか言えないだろうが、フェリシアは見目麗しい容姿よりも、前世の聖女となった彼女の方が好みだったのにと思って複雑な気持ちを持ってもいた。
前世の自分よりも、アルセーヌはイケメンになっていて、それにも複雑なものがなかったわけではなかったが、きっとかなり混乱しているせいだろう。
今、そんなことを残念に思っている場合ではなかったのだが、フェリシアは一周回ってアルセーヌの側にいることで、妙に落ち着いていた。
どす黒い感情に飲み込まれることもなく、フェリシアがデュドネから出ることになったのは初めてだった。
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