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第1章
2一14
しおりを挟むメーデイアが召喚された聖女だと周りが話しているのをフェリシアが聞いたのは、彼女を認識してかなり経ってからだった。
「え? 聖女……?」
そのため、フェリシアはその事実に驚いてしまったが、周りは何をそんなに驚くのかと不思議そうにしてフェリシアを見ていた。
「今更、そこまで驚くこと?」
「え? 今更……?」
「まぁ、でも、フェリシア様も、焦りますわよね。聖女が召喚されたのですもの」
「??」
この時のフェリシアは、周りの令嬢たちが何を言いたいのかがさっぱりわからなかった。聖女など、信じていない国としてフェリシアは歴史を調べ尽くしたのだ。
そんな国で召喚なんてするわけがないし、それが成功するはずがないと思っていた。したとしても、信じる者は少ないのだ。みんなが当たり前のように受け入れていることに首を傾げたくなっていた。
それなのに彼女たちは、召喚された聖女が現れたのだから、王太子がその聖女を選ぶことも時間の問題だと言ったのだ。それにフェリシアは驚かずにはいられなかった。
(この人たちは、何を言っているの……? 聖女を信じていないと思っていたけど、本当は信じていたってこと?)
「あんなに仲良くなさっているのだもの。そろそろ、婚約解消をお考えなのでしょう?」
「……」
なぜか、当たり前のようにメーデイアと王太子が婚約するのは当たり前のことだとフェリシアは、至る所で言われるようになり、それを言われる度に気が変になりそうになっていた。前と今では、全く逆転しているのだ。聖女をどの国よりも信じて疑わない人たちが、こんなにも多かったのかと思い始めるくらい。みんながみんなメーデイアのことを聖女として召喚されたことを疑いもしなかったのだ。
それが、フェリシアには不気味で仕方がなかった。
(みんな、どうしてしまったの? それに殿下もよ。最近では、私と一緒にいてくれなくなった。あの、聖女とかいう令嬢と一緒にいてばかり。私への挨拶の一つどころか。目も合わせなくなった。殿下は、私の味方ではなかったの?)
それでも、周りはそれも仕方がないかのようにフェリシアに言うのだ。まるで、フェリシアが婚約なんてしたままでいるから、シプリアンとメーデイアが婚約できずに迷惑しているかのように言われることにもなって、それに何とも言えない顔をするようになったのも、割とすぐのことだった。
そんな日々にフェリシアだけが、違和感と恐怖を覚えずにはいられなかった。
何より、召喚されたという聖女が、この世界の危機でも何でもないのに現れて、王太子と仲良くしていく姿を見て気分が悪くなり始めていた。
フェリシアが覚えている聖女は、夢で見た最初の聖女となった彼女だ。聖女とは、どこまでも優しく包容力があって、慈愛に満ちていて、自分のことより他を優先するような女性がなれるものだと思っていた。
それが、前世愛してやまなかった聖女となった女性だったからだ。
(どうなっているの? どうして、日に日にみんなの記憶が上書きされていっているのに誰も何とも思わないの? あれが、あんなのが聖女だなんて、絶対に何かの間違いだわ。私が、どす黒い感情を持って聖女を毛嫌いしていた時みたいなのが、聖女なわけがないじゃない!)
他は、召喚された聖女が突然現れたことに何とも思うことなく、あっという間に受け入れてしまっていることも不気味で仕方がなかった。
自分だけが拒否していることがおかしく思え始めて、フェリシアの気持ちが落ち着くことはなかった。
(一体、どうなっているの? 私がおかしいの?)
フェリシアは、段々と居場所がなくなっていくことにそんなことを思い始めて弱気になっていた。
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