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第1章
2一11
しおりを挟むそんなことがあってから、長期休暇のたびに第二王子のお忍びに付き添うようにアルセーヌはやって来た。
そのたび、アルセーヌが大人びていくのを見て、フェリシアは自然とにこにこしとしていた。
「それで、今回は何を建前にして来られたんですか?」
「こっちの王女との縁談が持ち上がっていてね。どんな王女か見に来たんだ」
王子は何食わぬ顔をして言うのにフェリシアは、笑顔のままだった。
「本音は?」
「アルセーヌが、幼なじみに会いたがっていたから、わがままを爆発させたふりをしつつ、私も見目麗しい女性とお茶がしたくてね」
「王女殿下なら、王宮ですよ? これから行かれるのですか? なら、早く行かれませんと日が暮れてしまいます」
にっこりと笑顔のまま、お帰りはあちらとばかりするフェリシアに王子は肩を竦めた。
「訂正する。見目麗しい令嬢とお茶がしたい。目の保養がしたい」
「王女は可愛らしい方ですよ」
「可愛らしいのは、私の好みじゃない」
(だからって、ここに居座られても困るのだけど)
どうやら、王子はこれが素のようだ。お忍びとはいえ、デュドネ国の王太子の婚約者のところに来るのにフェリシアの幼なじみを利用しているようにも見える。
それに付き合わされているが、素知らぬ顔をして一緒に来ている幼なじみが、おかしくてフェリシアは笑ってしまった。そんなことに付き合わされても元気そうなのだ。
(どうせなら、王子抜きで会いたいものだけど。そうもいかないわよね)
それにアルセーヌが、どこかホッとした顔をしていた。それがフェリシアには不思議でならなかった。
(? 何で、そんな顔をするの?? もしかして、迷惑していると思ったとか? ……まぁ、王子には迷惑してるけど)
年に一度の台風とでも思えば、どうということはない。嵐のように過ぎていくのを待てばいいだけだ。
「フェリシア嬢。そろそろ、王宮に行くことにするよ。……行きたくないけど、アルセーヌ。悪いな、付き合ってくれ」
「謝らないでください。あなたに謝られると困ります」
そんな風にして、王子とアルセーヌは楽しそうにしていた。それを見て良かったと思いつつ、疎外感が半端なかった。
(仕方がないわよね。建前がなければ、2人っきりでなんて会えないんだもの)
流石に王子がアルセーヌに付き合うのにも限界があったようだ。ないわけがないが。
それから、しばらく長期休暇に2人がデュドネには訪れていないようだ。いや、来てるのかも知れないが、フェリシアは彼らに会ってはいない。
王女との縁談話は頓挫したようだ。第二王子にではなくて、アルセーヌの方に一目惚れしたらしいのだが、それを王子はあの調子で王女に勘違いさせて縁談を上手く断ったようだ。
更には、そのままにしておけば友人のアルセーヌが、とんでもないのと婚約するはめになると思ったようで、アルセーヌと王子が深い仲だと思わせて逃げきったようだ。
そのことで、フェリシアは婚約者の王太子に気遣われてしまったが、フェリシアは一通りのことを聞いた時に吹き出しそうになるのを我慢するのが一苦労だった。
第二王子が、どんな人かをわかっていたことも大きかった。アルセーヌとそんな関係だとわざと思わせたのは、誰に言われなくともフェリシアにはよくわかっていた。
(アルセーヌが、物凄い顔をしてたでしょうね。……見てみたかったわ。でも、これで、もう長期休暇にはこっちに来ても、私のところには来なさそうね)
そう思うとフェリシアは寂しく思えてならなかった。
だが、王子がアルセーヌの側にいるのを見ていたこともあり、彼はこちらに来ないままで、あちらで過ごしていれば大丈夫だと思えてならなかった。
そんなことがあってから、手紙の内容は王子に振り回されて苦労している内容が多くなった気がするが、それを読むたびフェリシアは笑いがこみ上げて仕方がなかった。
長期休暇の数日どころか。数時間だけでも、フェリシアがやっと呼吸ができているかのようになっていたのは、その手紙があったからこそだった。
でも、その呼吸の仕方も、アルセーヌに会わなくなっていく時間が長くなるにつれて、言いしれぬ不安がフェリシアの中で渦巻くようになっていくのを止めることはできなかった。手紙のやり取りだけではカバーできない不安が払拭できずに残り続けたせいに他ならなかった。
聖女のことを調べてしまったことが不安の引き金になっているのは間違いないが、フェリシアは自分の前世を思い出してしまったあとは、ここにいるとよくないことが起こる気がし始めて、胸騒ぎがしていた。
そんなことになる前にどこかに逃げろと何かが警告しているような奇妙な感覚にフェリシアは襲われたのだが、その警告があったのにフェリシアはそれを役立てることが上手くできなかった。
婚約者のことをそれほどまでに信じきろうとしていて、勘で動けなかったのだ。
そのせいで、フェリシアは最悪な形で婚約を破棄され、追放までされることになって、信じた者に裏切られたことにより、どす黒い感情が爆発しないままにするなんてできなくなっていた。
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