突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら

文字の大きさ
上 下
28 / 57
第1章

2一11

しおりを挟む

そんなことがあってから、長期休暇のたびに第二王子のお忍びに付き添うようにアルセーヌはやって来た。

そのたび、アルセーヌが大人びていくのを見て、フェリシアは自然とにこにこしとしていた。


「それで、今回は何を建前にして来られたんですか?」
「こっちの王女との縁談が持ち上がっていてね。どんな王女か見に来たんだ」


王子は何食わぬ顔をして言うのにフェリシアは、笑顔のままだった。


「本音は?」
「アルセーヌが、幼なじみに会いたがっていたから、わがままを爆発させたふりをしつつ、私も見目麗しい女性とお茶がしたくてね」
「王女殿下なら、王宮ですよ? これから行かれるのですか? なら、早く行かれませんと日が暮れてしまいます」


にっこりと笑顔のまま、お帰りはあちらとばかりするフェリシアに王子は肩を竦めた。


「訂正する。見目麗しい令嬢とお茶がしたい。目の保養がしたい」
「王女は可愛らしい方ですよ」
「可愛らしいのは、私の好みじゃない」


(だからって、ここに居座られても困るのだけど)


どうやら、王子はこれが素のようだ。お忍びとはいえ、デュドネ国の王太子の婚約者のところに来るのにフェリシアの幼なじみを利用しているようにも見える。

それに付き合わされているが、素知らぬ顔をして一緒に来ている幼なじみが、おかしくてフェリシアは笑ってしまった。そんなことに付き合わされても元気そうなのだ。


(どうせなら、王子抜きで会いたいものだけど。そうもいかないわよね)


それにアルセーヌが、どこかホッとした顔をしていた。それがフェリシアには不思議でならなかった。


(? 何で、そんな顔をするの?? もしかして、迷惑していると思ったとか? ……まぁ、王子には迷惑してるけど)


年に一度の台風とでも思えば、どうということはない。嵐のように過ぎていくのを待てばいいだけだ。


「フェリシア嬢。そろそろ、王宮に行くことにするよ。……行きたくないけど、アルセーヌ。悪いな、付き合ってくれ」
「謝らないでください。あなたに謝られると困ります」


そんな風にして、王子とアルセーヌは楽しそうにしていた。それを見て良かったと思いつつ、疎外感が半端なかった。


(仕方がないわよね。建前がなければ、2人っきりでなんて会えないんだもの)


流石に王子がアルセーヌに付き合うのにも限界があったようだ。ないわけがないが。

それから、しばらく長期休暇に2人がデュドネには訪れていないようだ。いや、来てるのかも知れないが、フェリシアは彼らに会ってはいない。

王女との縁談話は頓挫したようだ。第二王子にではなくて、アルセーヌの方に一目惚れしたらしいのだが、それを王子はあの調子で王女に勘違いさせて縁談を上手く断ったようだ。

更には、そのままにしておけば友人のアルセーヌが、とんでもないのと婚約するはめになると思ったようで、アルセーヌと王子が深い仲だと思わせて逃げきったようだ。

そのことで、フェリシアは婚約者の王太子に気遣われてしまったが、フェリシアは一通りのことを聞いた時に吹き出しそうになるのを我慢するのが一苦労だった。

第二王子が、どんな人かをわかっていたことも大きかった。アルセーヌとそんな関係だとわざと思わせたのは、誰に言われなくともフェリシアにはよくわかっていた。


(アルセーヌが、物凄い顔をしてたでしょうね。……見てみたかったわ。でも、これで、もう長期休暇にはこっちに来ても、私のところには来なさそうね)


そう思うとフェリシアは寂しく思えてならなかった。

だが、王子がアルセーヌの側にいるのを見ていたこともあり、彼はこちらに来ないままで、あちらで過ごしていれば大丈夫だと思えてならなかった。

そんなことがあってから、手紙の内容は王子に振り回されて苦労している内容が多くなった気がするが、それを読むたびフェリシアは笑いがこみ上げて仕方がなかった。

長期休暇の数日どころか。数時間だけでも、フェリシアがやっと呼吸ができているかのようになっていたのは、その手紙があったからこそだった。

でも、その呼吸の仕方も、アルセーヌに会わなくなっていく時間が長くなるにつれて、言いしれぬ不安がフェリシアの中で渦巻くようになっていくのを止めることはできなかった。手紙のやり取りだけではカバーできない不安が払拭できずに残り続けたせいに他ならなかった。

聖女のことを調べてしまったことが不安の引き金になっているのは間違いないが、フェリシアは自分の前世を思い出してしまったあとは、ここにいるとよくないことが起こる気がし始めて、胸騒ぎがしていた。

そんなことになる前にどこかに逃げろと何かが警告しているような奇妙な感覚にフェリシアは襲われたのだが、その警告があったのにフェリシアはそれを役立てることが上手くできなかった。

婚約者のことをそれほどまでに信じきろうとしていて、勘で動けなかったのだ。

そのせいで、フェリシアは最悪な形で婚約を破棄され、追放までされることになって、信じた者に裏切られたことにより、どす黒い感情が爆発しないままにするなんてできなくなっていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

処理中です...