27 / 57
第1章
2一10
しおりを挟む特に兄の言葉は酷かった。フェリシアのしていたことをパフォーマンスとして見ていたのだ。フェリシアにそんなつもりはなかった。あるわけがなかった。
でも、ドナシアンはそう思っていたのだ。そして、両親も同じように思っていたのだ。こんなにすぐ近くにそんなことを思っていた人たちがいたことにフェリシアは全く気づけていなかった。
それに腹が立って仕方がなかった。フェリシアと血の繋がっている人たちが、そんなことを平然と言うことに怒りがこみ上げてきた。
(怒ったら、駄目よ。アルセーヌが悲しむわ。誰かが仲違いするのも、アルセーヌは好きではないのよ。私が、家族とアルセーヌのことで口論したと知ったら、悲しませてしまう。穏便にやり過ごさなければ。聖女を馬鹿にしているのだもの。こんな風に誰かを馬鹿にするのは今に始まったことじゃない。それが、私にも同じように思っていただけのことじゃない)
フェリシアは、そう思ってやり過ごすことにした。腸が煮えくり返る思いをしながら、何でもない顔をし続けた。
それはすべてアルセーヌを悲しませるようなことをしたくない一心からだった。
そんなこと知らない家族は、その後も散々なまでにアルセーヌをこけおろし続けたが、フェリシアがそんな家族に怒り狂う姿を見せることはなかった。
部屋に戻って八つ当たりに余念がなかったのは言うまでもないが、物を壊すのもアルセーヌは嫌うため、枕をサウンドバック替わりに殴りつけるくらい、しかしなかったが。
(酷すぎるわ! あんなこと、どうして言えるのよ!! ……もしかして、アルセーヌはあの家でも同じように言われていたりしてないわよね?)
彼の弟や両親を思い出して、ゾッとしてしまった。それこそ、有り得そうなのだ。フェリシアの家族よりも、酷そうなくらいではないかと思えてならなかった。
(彼の叔父夫妻って、どんな人たちなのかしら? アルセーヌは、聖女を信仰しているからいい人たちだとしか教えてくれなかったけれど)
フェリシアは、偽善者呼ばわりされたことなどで怒ってはいなかった。すべてはアルセーヌを悪く言う家族を見ていることに腹が立ったが、自分のことを誤解する家族には冷めた気持ちしかなかった。
長期休暇になって、アルセーヌが容姿となって数年して、フェリシアに会いに公爵家に寄ってくれた。彼は、びっくりするくらい元気になっていた。
そして、お忍びでアルセーヌと一緒に来た人物は、隣国の第二王子だったようだ。
「彼の育ての両親と弟くんに会いたくてね。アルセーヌを見限ってくれたおかげで、私は彼と友人になれたんだから」
「……」
「殿下」
「っと、失礼。つい本音が。建前は、こっちの学園に通うか悩んでいてね。アルセーヌの弟くんが、優秀だって騒ぐから、アルセーヌに比べて大したことないって言ってやりたくてね」
「殿下!」
「本当のことだろ? フェリシア嬢、こいつと私は上位争いをしているんだ」
「え? それって、アルセーヌが学園に通っているんですか?」
「おや? 知らないのかい?」
「えぇ、存じませんでした」
「あ、いや、その……」
どうやら、本当にこの国が彼には合わなかったようだ。
そして、アルセーヌの実の両親と弟は、王子が嫌味を炸裂させたらしく、本当に優秀な方は兄の方だったと思わせるのも、すぐだった。
どうにかして養子を撤回させようとしていたようだが、今でもアルセーヌの養父母たちはとりあうことはなかった。
あの王子も、騒がせるだけ騒がせて留学してくることはなかった。
(本当にアルセーヌの実家に喧嘩を売りに来ただけみたいね)
フェリシアの家族も、散々なまでに馬鹿にしていたのに手のひらを返すようにアルセーヌへの評価を変えたのにフェリシアは呆れるしかなかった。
(ここまで、わかりやすい手のひら返しはないわよね。……全く、来るなら来るって連絡してくれたらいいのに、でも、アルセーヌの弟やおじ様たちがアルセーヌのことを色々言っていたのにも、腹が立っていたのよね。これで、静かになってくれそうね。それにしても、びっくりするほど元気になっていて、別人みたいだわ。……そんなにこの国が合わなかったってことになるのかしら? そこまで我慢して、どうしてここにいたんだろ?)
ふとフェリシアは、そんなことを思った。時折、フェリシアに訪れる胸騒ぎの正体を既に知っているような気がしたが、それを詳しく聞くことはなかった。
(そんなわけないわ。何でもかんでも、都合よく考えたら駄目よね。アルセーヌは、あちらで元気に過ごせているんだもの。あとは、私がこっちで幸せになるだけのことだわ)
そう思って、胸騒ぎに無理やり蓋をした。
24
お気に入りに追加
301
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!
真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」
皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。
ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??
国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡
転生ヒロインは悪役令嬢(♂)を攻略したい!!
弥生 真由
恋愛
何事にも全力投球!猪突猛進であだ名は“うり坊”の女子高生、交通事故で死んだと思ったら、ドはまりしていた乙女ゲームのヒロインになっちゃった!
せっかく購入から二日で全クリしちゃうくらい大好きな乙女ゲームの世界に来たんだから、ゲーム内で唯一攻略出来なかった悪役令嬢の親友を目指します!!
……しかしなんと言うことでしょう、彼女が攻略したがっている悪役令嬢は本当は男だったのです!
※と、言うわけで百合じゃなくNLの完全コメディです!ご容赦ください^^;
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
婚約破棄が私を笑顔にした
夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」
学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。
そこに聖女であるアメリアがやってくる。
フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。
彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。
短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。
【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる