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第1章

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フェリシアには、両親と兄がいた。兄の名前は、ドナシアン。兄は、侯爵家の令嬢と婚約していて、この二人も並ぶと見目麗しくて人々は、フェリシアたちのように羨ましそうに彼らをよく見ては、そこかしこで話題にしていた。そのほとんどがよい話題だった。

全てではないのは妬んだり、嫉妬したりする者たちが嫌味なことを言っているだけのようだが、いつもではないところを見るとそんなことを言う人たちの機嫌の悪さもあったのかもしれない。


(できれば、機嫌の良い時ばかりだといいと思ってしまうけど、そんなことのために私が機嫌取りするのも変な話よね)


他の人たちには、それらが聞こえていないかのようにスルーしていて、フェリシアは自分が物凄く耳がいいのだと思い始めて、げんなりしていあまり良く思っていなかった。

両親も兄も、フェリシアの幼なじみのアルセーヌのことを、好きではなかったようだ。病弱で、跡継ぎに相応しいとは思えないとまで言われ、叔父夫妻の養子になって、隣国に行ってしまった。

フェリシアは一方的に見舞いにばかり行っていたのだが、婚約したフェリシアの邪魔でしかないと思っているようでもあった。

別にアルセーヌが寂しいからと見舞いに来てくれとせがんでいたわけでは決してない。フェリシアが会いたくて会いに行っていたにすぎないのだが、両親も兄も変な誤解をしたままだったのは、幼なじみのことを母が色々と言っていたのを鵜呑みにしていたからも大きかったようだ。


「病弱でベッドから出れないのにフェリシアの邪魔をするのはできるなんて皮肉よね」


母は、自分が最初にフェリシアたちを引き合わせたことをすっかり忘れ去っていたようだ。

だが、フェリシアと彼の叔父夫妻は、アルセーヌをそんな風には思って見たことはなかった。ただの一度もだ。

両親や兄に対して、フェリシアは口にしたくもないし、思いたくない気持ちもあったが、それを言葉にすることなく、彼らが色々と言うのをスルーすることに必死になっていた。それが何より大変だった。


(どうして、こうもモヤモヤするんだろう。アルセーヌを色々言われると家族であろうと我慢できなくなるわ)


「全く、病弱なだけで家族に迷惑かけている分には構わないが、フェリシアにまで迷惑をかけられ続けていると思うと気が気ではなかったが、やっと腹を括ったようだな」


父の言葉に何を言っているのかが、フェリシアは最初わからなかった。


「それにしても、跡継ぎから外された子息を養子にするとは、酔狂な叔父がいたものだ」
「全くね」
「っ、」


両親や兄たちが、アルセーヌを馬鹿にして笑っていることに気づいて、フェリシアは腸が煮えくり返り返りそうになった。


「全く、お前も、お前だぞ。王太子と婚約したというのに幼なじみの見舞いに足を運び続けて何を考えているんだ」
「本当ですよ。病弱で、長くもないともっぱらの噂なのに」
「っ、」
「お前な、優しいふりも大概にしとけよ」
「え?」


(ふりって、言った……?)


ドナシアンの言葉に頭が真っ白になった。


「王太子の婚約者になったからって、急にはやめられないとはいえ、折り合いくらいつけられただろ。幼なじみだとしても使えもしない役立つの子息なんぞより、将来自分の役に立つ方に力をいれるべきくらいわかるだろ」
「……」
「まぁ、これに懲りたら優しいふりも、ほどほどするんだな」


家族の物言いはあまりにも酷いものだった。思わず怒鳴りたくなったが、フェリシアはアルセーヌがそれを望まないこともわかっていて、怒鳴ることを回避した。


(こんな風に家族に思われていたことに気づいていなかったことが一番あり得ないわね。私の家族が、こうならアルセーヌはあの家族にどんなことを言われていたんだろ。……私のせいで、酷い目にあっていたのに全然気づかなかった)


それが一番あり得ないと自分のことが許せなかったが、その罰すら幼なじみは受けさせてくれなかった。


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