26 / 57
第1章
2一9
しおりを挟むフェリシアには、両親と兄がいた。兄の名前は、ドナシアン。兄は、侯爵家の令嬢と婚約していて、この二人も並ぶと見目麗しくて人々は、フェリシアたちのように羨ましそうに彼らをよく見ては、そこかしこで話題にしていた。そのほとんどがよい話題だった。
全てではないのは妬んだり、嫉妬したりする者たちが嫌味なことを言っているだけのようだが、いつもではないところを見るとそんなことを言う人たちの機嫌の悪さもあったのかもしれない。
(できれば、機嫌の良い時ばかりだといいと思ってしまうけど、そんなことのために私が機嫌取りするのも変な話よね)
他の人たちには、それらが聞こえていないかのようにスルーしていて、フェリシアは自分が物凄く耳がいいのだと思い始めて、げんなりしていあまり良く思っていなかった。
両親も兄も、フェリシアの幼なじみのアルセーヌのことを、好きではなかったようだ。病弱で、跡継ぎに相応しいとは思えないとまで言われ、叔父夫妻の養子になって、隣国に行ってしまった。
フェリシアは一方的に見舞いにばかり行っていたのだが、婚約したフェリシアの邪魔でしかないと思っているようでもあった。
別にアルセーヌが寂しいからと見舞いに来てくれとせがんでいたわけでは決してない。フェリシアが会いたくて会いに行っていたにすぎないのだが、両親も兄も変な誤解をしたままだったのは、幼なじみのことを母が色々と言っていたのを鵜呑みにしていたからも大きかったようだ。
「病弱でベッドから出れないのにフェリシアの邪魔をするのはできるなんて皮肉よね」
母は、自分が最初にフェリシアたちを引き合わせたことをすっかり忘れ去っていたようだ。
だが、フェリシアと彼の叔父夫妻は、アルセーヌをそんな風には思って見たことはなかった。ただの一度もだ。
両親や兄に対して、フェリシアは口にしたくもないし、思いたくない気持ちもあったが、それを言葉にすることなく、彼らが色々と言うのをスルーすることに必死になっていた。それが何より大変だった。
(どうして、こうもモヤモヤするんだろう。アルセーヌを色々言われると家族であろうと我慢できなくなるわ)
「全く、病弱なだけで家族に迷惑かけている分には構わないが、フェリシアにまで迷惑をかけられ続けていると思うと気が気ではなかったが、やっと腹を括ったようだな」
父の言葉に何を言っているのかが、フェリシアは最初わからなかった。
「それにしても、跡継ぎから外された子息を養子にするとは、酔狂な叔父がいたものだ」
「全くね」
「っ、」
両親や兄たちが、アルセーヌを馬鹿にして笑っていることに気づいて、フェリシアは腸が煮えくり返り返りそうになった。
「全く、お前も、お前だぞ。王太子と婚約したというのに幼なじみの見舞いに足を運び続けて何を考えているんだ」
「本当ですよ。病弱で、長くもないともっぱらの噂なのに」
「っ、」
「お前な、優しいふりも大概にしとけよ」
「え?」
(ふりって、言った……?)
ドナシアンの言葉に頭が真っ白になった。
「王太子の婚約者になったからって、急にはやめられないとはいえ、折り合いくらいつけられただろ。幼なじみだとしても使えもしない役立つの子息なんぞより、将来自分の役に立つ方に力をいれるべきくらいわかるだろ」
「……」
「まぁ、これに懲りたら優しいふりも、ほどほどするんだな」
家族の物言いはあまりにも酷いものだった。思わず怒鳴りたくなったが、フェリシアはアルセーヌがそれを望まないこともわかっていて、怒鳴ることを回避した。
(こんな風に家族に思われていたことに気づいていなかったことが一番あり得ないわね。私の家族が、こうならアルセーヌはあの家族にどんなことを言われていたんだろ。……私のせいで、酷い目にあっていたのに全然気づかなかった)
それが一番あり得ないと自分のことが許せなかったが、その罰すら幼なじみは受けさせてくれなかった。
34
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました
鈴宮ソラ
ファンタジー
オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。
レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。
十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。
「私の娘になってください。」
と。
養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。
前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる