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第1章
2一8
しおりを挟むフェリシアの婚約者は、シプリアンという名前のデュドネの王太子だった。
二人とも、幼い頃から容姿端麗で、成長するにつれて美男美女となっていた。そんな二人は、幼い頃に婚約したこともあり、とても仲が良くて周りからは理想そのものだとよく言われていた。
「本当にお似合いよね」
「本当ね。容姿がいいと得するわよね。聖女の先祖がいても、王太子の婚約者になれるんだもの」
「聖女なんて、おとぎ話でしょ」
「あら、フェリシア様は聖女がお嫌いだと聞いたわよ?」
「ご自分の先祖を悪く言うなんて、最低な子孫がいたものだわ」
「でも、仕方がないわよ。聖女の子孫だとわかったら、私だって他人のふりをしている」
そんな風に話す令嬢たちの楽しそうな声が聞こえてきた。
「気にすることはない」
「王太子殿下」
「君は、君だ。私は、君が聖女の末裔だから婚約者に選んだわけではない。そんなこと関係なく、君だから選んだんだ」
「……」
周りが色々と言っていようとも、少なくとも王太子から聖女のことを悪く言う言葉をフェリシアは一度も聞いたことがなかった。
(口にしないだけだとしたら、私の方がボロクソに聖女のことを嫌っていたのを知らないのよね)
「フェリシア? どうかしたか?」
「いいえ。何でもありません」
フェリシアとて、本音と建前を公爵家の令嬢として使い分けてきているのだ。王太子が使い分けていても仕方がないのだが、それでも心の中ですら思ってほしくはないと身勝手にもフェリシアは思っていた。
そんなことを思うたび、ついつい王太子を見つめてしまっていて、そのたびシプリアンが目ざとく気づいてくれて声をかけてくれたが、その理由を口にしたことはなかった。
幼なじみが遠くに行ってしまってから、フェリシアは益々王太子と距離を縮めることになったが、そんなフェリシアを不思議そうにしながらも、追求することもなかった。本当にただ見ているだけだと思われていたのか。はたまた、聞き出したところで面倒そうだと思っていたのかは、フェリシアにはわからない。
だが、この出来事をとあることがあってから思い返してみると本心はフェリシアが見る目がないと思っていた以上に酷かったのかも知れないが、この時のフェリシアはそんなことに全く気づいてはいなかった。
(殿下の隣に立ち続けるに相応しい女性になりたいものだわ。そう思いながら、幼なじみのアルセーヌに会いたくなってしまうのは、どうしてなのかしらね。……病弱な幼なじみが心配でならないからかしら。祈ることしかできないなんて、変な気分だわ。それに誤解していたとはいえ、聖女のことを良く知りもせずに嫌っていたものだわ。アルセーヌが、自分の側にいる時だけは悪く思うことすらしないでくれって、あの約束が心に響くは)
そんなことを思っていた。いてたたまれなくなったフェリシアは、不思議な夢の話を手紙にして幼なじみに送っていた。
他の誰もまともにとりあってくれずとも、アルセーヌだけはスルーしないと思ったのだ。
「そんなことしても、許されることではないのに」
そう思いながらも、フェリシアは聖女の話とどの国でも残っていない聖女を追いかけて来た男性のことも書いていた。
聖女となった最愛の人を取り戻すためにやってきて、彼女に再会することなく死んだのだ。だから、この世界が一層のこと滅んでしまえばいいと思わずにはいられないことをフェリシアは書いていた。
今は聖女が生まれ変わっているなら、お会いしたい気持ちでいっぱいだと書き記した。それは、フェリシアの本心だった。
(こんなこと書いて送ってもアルセーヌが困るだけなのに。何やってるんだか)
そう思いながらも、隣国に行ってしまった幼なじみに手紙を送っていた。
それこそ、幼なじみでなければ、フェリシアのこの行動を悪く取っていただろうが、アルセーヌがそう捉えることはなかった。
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