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第1章
2一7
しおりを挟むフェリシアは聖女側が不鮮明でも見えたのは、今世が聖女の子孫だからではないかと思い始めていた。
血肉に宿る記憶だ。聖女は、戻れないことを嘆きつつ、自分にしかできないことをまっとうした。
この世界を救っても、彼女自身が幸せになれなかったことをフェリシアはようやく知ったのだ。それを知って胸が傷んでならなかった。
何をしたのかを知らずとも、この世界の人々のために身勝手にも召喚され、元の世界から急に引き離されることになったことを思うといたたまれない気持ちになってしまった。
(追いかけて来た男性も、裏切られた気持ちが強かったのよね。だから、聖女を恨まずにはいられなかった。でも、あれが本当だったら、聖女は悪くない。懸命に生きようとしただけじゃない)
それこそ、この世界を救ってくれたのだと思って感謝の思いを持ってくれるくらいしても、罰は当たらないのではないかとフェリシアは思ってならなかった。
だが、そんなことをフェリシアは誰かに言うことはなかった。両親や兄は、迷信だと思っているようで聖女の血を継いでいることも眉唾もののようにしていて、我が家が聖女の子孫として話題にのぼるのも嫌そうにしていた。前までのフェリシアもそうだったからよくわかる。
(聖女と血が繋がっていること自体を恥のように思っているのよね。赤の他人に思われるよりも、子孫にそんな風に思われることほど、悔しいことはないでしょうね。……まぁ、私も、そんな家族と同じようなことを思っていたのだけど。それが、聖女を追いかけて来た方とは思わないわよね)
隣国に住んでいるアルセーヌの叔父夫妻は、聖女という存在を心から信じているようだ。フェリシアの遠縁も、住んでいるが、会ったことはない。
デュドネの国の者は忘れ去ってしまっているどころか。眉唾ものよりも、更に酷い扱い方をよくしているが、他国の者たちはそれなりに覚えていて、聖女を神の御使いだと崇めているところもあった。少なくなっているし、口先だけで本当にそう思っているかも怪しい者もいたが、それまでそう言っていたからと話していても、その人が本心から言っているのは、わずかになっていた。
アルセーヌが養子になった叔父夫妻が住んでいる国だけは言葉も、心の内も真逆な者は少なかった。
それが嫌だと思う者も完全にいないわけではなかったが、そういう者は他国に嫁ぐが、婿入りしたりしていて、離れてから聖女のことを悪く言うことが多かった。
そんな世界で、フェリシアは先祖の聖女の夢と彼女を命がけで追いかけて来て彼女に会う前に殺された男性を見てから、時折不思議な感覚に襲われるようになっていた。
(聖女の本当の気持ちを知って、私の中で何かが変わった気がする。まるで、私自身が聖女だったみたいに思えて悔しくて、悔しくて仕方がなくなる。でも、私は生まれ変わったのだもの。彼女も生まれ変わっているかも知れない)
だが、既にフェリシアに婚約者がいる今、気軽に探しに行けないことにフェリシアはしょげていた。
(生まれ変わった彼女に一目でいい。会ってみたいものだわ。幸せになってほしい。誰よりも)
フェリシアは、そう思わずにはいられなかった。
だが、前世の前世うんねんよりも、別の予兆が刻々と近づいてきていたのだが、フェリシアは知ってしまった真実に手一杯になりすぎていて、全く気づいてはいなかった。
フェリシアの中で、聖女についてそんな風に思えるようになったのは大きな区切りだった。ここまでになっていなければ、フェリシアの立ち位置を横からかっさらう存在が現れた時にもっと酷いことになっていそうだが、そこまでにはならなかったのも、フェリシアの中で聖女への偏見がおさまったからに他ならなかった。
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