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第1章
2一4
しおりを挟む(こんなことなら、調べなければよかったと思いたいところだけど、聖女のことで、一喜一憂するなんて馬鹿みたいに変な気分。存在してもいないのに。夢幻で、おとぎ話なはずなのに)
最後に調べた国のことで、フェリシアの中で変化し始めたのだ。
そこは今も聖女のことを深く信仰していて、感謝し続けている国だった。そこでは、聖女は幸せな生涯を送ったことで語り継がれていた。
きっと、その国では元から国民が聖女に感謝してやまない想いに溢れていたからこそ、幸せになれたと語り継がれているのではないかとフェリシアは思った。
それでも、その話を知ってもなおフェリシアは、幸せになれたと語り継がれているというのに喜べなかったのだ。逆に言いしれぬ怒りがこみ上げてならなかった。
(どうして……? 聖女が、もし存在していたのなら、嘘でも幸せになれたのを喜んでもいいのに。どうして、怒りが沸き起こってしまうんだろう? なぜ、こんなにも聖女という存在を私は許せないんだろう? これは、私に流れている血のせい?)
フェリシアは、この世界を救ったとされる聖女のことを知りたくなかった。でも、片隅でどう語られているかが気になってならなかった。矛盾しているのはわかっているが、どうにも2つの感情がフェリシアの中でうずまき続けていた。
(アルセーヌが信じている存在だからかな。どうして、私はこんなにも聖女のことになると余裕がなくなるんだろう)
聖女が本当に存在していたら、何を思い、何を感じ、生きたのかを知りたいと思い始めてすらいた。この世界が、こうして存在しているのならば、彼女は命がけで救ったはずだ。誰一人として知らない人たちしかいない世界を救うために彼女は、何をしたのか。それで、彼女はどうなったのか。
正確に語り継がれていないで、てんでバラバラなことを各国が伝えているのにそれにおかしいと思う者がいない世界になっていることにフェリシアはモヤモヤしながらも、どこかホッとしてもいた。
まるで、そうなるように仕向けた人物を知っているかのようにフェリシアは真実ではない伝承ばかりに喜んでいた。
フェリシアの国とは違って、聖女のことをよく思っている国で聖女が暮らしていたら、敬われることになるはずだが、それをされたくなくて、わざわざ言わずに隠しているだけなのかと思っていたが、そうではなかったのだ。
フェリシアの国で召喚され、どこの国にも行かずに元の世界に帰ることもできず、世界を救った聖女は象徴のようにされて、フェリシアの先祖と結婚していたのが本当のことだったようなのだ。
自分が聖女の子孫なのだと知って、フェリシアは絶句してしまった。それを両親から教えられたわけではなかった。親戚から聞いたわけでもなかった。
ただ、それが真実なのだとある日、気づいてしまったのだ。
だからこそ、フェリシアは聖女の存在が許せなくて、嫌っていることに気づいてしまったのだ。
そんな風に聖女に感謝している国であろうとも、本当のところ何があったかを知る者は、その国ですら居なくなっていたことをフェリシアは知っていて、それを嬉しく思っていた。物凄く奇妙でおかしなことだが。
聖女のことが正しく語られていないことが、喜ばしいと思ってしまうのだ。
だからこそ、フェリシアは必死になって努力を惜しむことなく、婚約者の隣に立ち続けようとしていた。この国でなら、頑張り続けられると思っていたことも大きかった。
(聖女に狂わされるなんて思わなかったわ)
でも、そんな頑張りが無駄になるどころか。信じてやまない心許した存在に呆気なく裏切られることになる日が来るとは思いもしなかった。
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