20 / 57
第1章
2一3
しおりを挟むフェリシアの住む世界では、遠い昔にこの世界の均等が歪むような事態が起こってしまったことがあったと言われている。
もはや滅びを待つしかないとされるようなことが起こったようだが、本当のところ何があったかがわかっていない。
そんな風に歪ませるきっかけがあったらしいが、その話を正しく語り継ぐ国は、もはや残ってはいなかったのだ。どうやら、それを正しく語り継ぐことをよく思っていない者によって、綺麗に隠蔽されてしまったようなのだ。
まぁ、そんなことをする者というのは、歪ませた張本人か。自分たちが関わっていたことを後世の人々に知られたくて、消し去ってしまえばなかったことにできると思ってやったのかも知れない。
隠蔽されたことすら知らない人たちが増えてしまえば、そんなことを深く考える者も少なくなってしまうのだろう。
今では、どこの国であろうとも正しく語り継がれていなかった。ちょっとした困ったことが起こって聖女を召喚することがあったかのようにされていて、その聖女は天涯孤独の身の上で、こちらに召喚されて世界も救い、この世界の人と相思相愛となって幸せに余生を過ごしたとされている。
それが大半の国での伝承だ。それは、まだいい方だ。もっと酷いものもあった。
聖女は世界を救ったことに天狗になってしまい、好き放題して大変なことになったと語り継がれている国もあった。
他には、結局は召喚しても大したことができなくて、自力で立て直したことになっている国もあった。
(そもそも、勝手に召喚しておいて、酷い物言いよね。自分の世界のピンチくらい、自分たちでどうにかすればよかったのに。それができないから、召喚しておいて本当は何があったかを消し去るなんて酷い話があったものだわ。……まぁ、本当に聖女なんて存在がいたらだけど。その時の聖女ほど、この世界が憎たらしいと思う者はいなかったでしょうね)
そもそも、おとぎ話のようなものと思っているフェリシアは、それらの歴史を知って、そんなことを思ってしまった。色々と思うことはあれど、最終的には聖女はいないと思いたくて仕方がなかったのかも知れない。
そこまでして存在をないものにしたくて仕方がない理由をフェリシアはわからないままだった。そのことを深く考えることもなかった。いないのにイライラするよりも、いたからこそイライラしてならないとなぜ思わなかったのかが不思議でならなかったくらいだ。
色んな国の聖女の語り継がれることを集めた時にどれもこれも、好き勝手に語り継いでいるなとなぜか、そんな風にフェリシアは思ってしまったのだ。
(聖女なんて、やっぱり、夢幻のおとぎ話にすぎなかったってことよね。この世界の住人にとって、困った時に助けてくれれば、どんな目にあったかなんて関係ないのよ。聖女が使い物になりさせすれば、用済みなんだもの)
聖女のことなど、知りたくもなかったのに。フェリシアは知りたくもなかったはずなのに。気づけば、他ではどう語られているのかと調べ尽くしてしまうほど、この世界の国々の聖女の伝承を調べてしまっていた。
何があったかをどこの国でも正しく語られなくなっているのをわかっていながら、今はどう語り継がれているかを知りたくなって調べてしまっているのだ。なぜ、そんな風に思うのかに疑問を持つことはなかった。
そして語り継がれていることを知って、正直なところホッとしていた。どこも、本当のことを何一つとして知りもしないのだと。それでもなお、聖女という存在を祀り上げるでもなく、感謝してさえいる国に言い知れぬ感情がこみ上げてもいた。
(変ね。どうして、こんな風に温かな気持ちになるのかしら? 聖女に感謝なんてするだけ、無駄なはずなのに。どうして……?)
感謝している国が存在していることを知ってフェリシアらは泣いた。どれもこれも、正しくないとフェリシアはなぜかそう思ってしまったのに。それが、嬉しかったのに。聖女に対して、感謝し続ける国の存在にフェリシアの中で、何かが喜んでいるようだった。血が躍るとでもいうのか。それにフェリシアは、戸惑ってしまった。
物凄く怒っているはずなのに同時に嬉しいことが起きているようで、その理由がフェリシアにはよくわかっていなかった。
47
お気に入りに追加
301
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
婚約破棄が私を笑顔にした
夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」
学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。
そこに聖女であるアメリアがやってくる。
フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。
彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。
短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる