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第1章
2一1
しおりを挟むフェリシアは、目を覚ました。そこは見慣れた自室だった。
(変なの。何だか、怖い夢を見ていた気がするけど、何を見ていたかを覚えてないわ)
そんなことを思って首を傾げていた。
それもこれも、幼なじみが側にいなくなったからだとフェリシアは思っていた。そして、何より嫌いな聖女について、気になり出したせいだと思い始めていた。
(アルセーヌは、信じているんだもの。居心地はいいでしょうね。私みたいに彼といる時だけ、悪く思わない令嬢より、信仰心厚い人たちが周りにいるんだもの。……きっと、私のことなんて、すぐに忘れてしまうはずよ)
そう思うたび、胸が締め付けられる思いがした。アルセーヌに忘れられることが、フェリシアは辛くて悲しくて切なくなってたまらなかった。
聖女のことが嫌いなはずなのにふとした疑問が生まれることになった。そんな風に変化する日が来るとはフェリシアは思ってもみなかった変化だった。聖女のことで、気になることができたのだ。
聖女について、教えてくれる人たちですら、それが当たり前のようになっているようで、ありきたりな言葉でしか答えてもらえなかった。
フェリシアが時折、質問することに怪訝な顔をされることも少なくなかった。聖女のことなど、したこく聞くこと自体デュドネではいなかったからだろう。
(教えてくれる人たちですら、疑問ではないのね。聖女は嫌いなはずなのに。どうして、聖女のことを知りたいと思ってしまうんだろう……? そんな事を知っても、アルセーヌとずっと一緒にいられるわけでもないのに。でも、この国の聖女の歴史は悪意のようなものを感じずにはいられない)
フェリシアくらいしか聞かないみたいで教えてくれる人たちが、照らし合わせたように同じことを言うのを聞いて、誰も答えてくれないことに肩を竦めてしまった。
(私が、しつこいみたいになっているわね。……でも、変ね。聖女が嫌いなはずなのに気になってしょうがないのは、どうしてなのかしらね? 何が、そんなにも引っかかってしまってるんだか。大昔の聖女のことなんて、どうでもいいのに)
あまりにもしつこく同じようなことを聞くせいで、何人かの先生が手に余るとばかりに辞めてしまったのも、同じ時期だった。
そのため、フェリシアが尋ねるのを辞めたのは、すぐのことだった。それこそ、何人もが一気に辞めてしまって、まるでフェリシアに意地悪いことをして辞めさせられたみたいに噂されてしまったのだ。
「見かけによらずってことね」
「そうよね。じゃなきゃ、一斉にあの人数、やめるわけがないものね」
「そんな令嬢が、婚約者のままで大丈夫なのかしらね」
「本当よね」
(なんてことなの。私が、意地悪をしたからやめたと思われているなんて……。まぁ、でも、しつこく同じことを聞いていたのは、意地悪って言えなくもないのかな?)
フェリシアを教えていた面々は、自ら辞めた時には次の仕事も決まっていたはずが、すぐに辞めさせられてしまうことになったのも問題があった。
公爵家に睨まれたくないと思ってのことのようだ。フェリシアの両親が圧力をかけたわけではない。雇った面々が、噂を聞いて関わりたくないと思ってのことのようだ。
公爵家だけでなくて、フェリシアの婚約者も関係していたようだ。そんなことになり、新しいところも、すぐに辞めることになってからは、どこも雇ってくれなくて大変な目にあってしまったようだ。
「面倒に関わりたくないものね」
「知らずに雇ったところは大慌てて解雇してるそうよ」
「うちは、危うく雇うところだったわ」
そんな会話を耳にしたフェリシアは、どうしたものかと悩んでしまった。それをフェリシアが違うと否定すればするほど、就職が困難となることを知って、フェリシアは口をつぐむことにしたのだ。それしか、フェリシアにはできなかったのだ。
(あんなことしつこく聞いたりしたからだわ。聞かなければ、先生たちをこんな風に困らせたりしなかったのに。しかも、聖女のことで。一体、何をしているんだか)
そんなことを思ってフェリシアは、反省することになった。どうにかしたくとも、両親ですら困っていた。勝手に辞めたのにフェリシアを虐めていたと言われ、そうでなければ一気に辞めた理由がフェリシアが逆に意地悪をしていたからではないかと噂にされかけたのだ。
それなのに勝手に辞めた先生方のために奔走するなんてことをフェリシアの家族はする人たちではなかった。
フェリシアも、本当は何があったかを問われれば答えていたが、答えたら答えたで怒られることがわかっていた。フェリシアとしては、怒られるくらいで疑惑が晴れるならば構わなかったが、それで元に戻る段階をとっくに過ぎてしまっていることに途方に暮れるばかりだった。
フェリシアも本当のことをもっとはっきりと言い続けていたら、少しは違っていたのかも知れないが、家にまで迷惑をかけることになることを回避する方法が見つからなかったのだ。
(深く追求したところで、時間を無駄にしたみたいになるってことね。これは、先生方が正しかったのかしらね。これは、こういうものって型にはめてしまえば、簡単で済まされるもの。それを私が掘り下げようとしたから、ややこしくなってしまったんだわ。やっぱり、聖女なんかに関わるとろくなことにならないわね)
そう思いながら、フェリシアの中でモヤモヤとした思いが燻り続けることになるとは思ってもみなかった。
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