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第1章
1一8
しおりを挟む(この国では元気になれない理由って、一体何があるんだろう……?)
ふと、そんなことをフェリシアは思ってしまったが、すぐに頭をよぎったのは、全く似てない彼の弟や彼の両親も頭に浮かんだが、そんなものではない気がした。
でも、それをアルセーヌに詳しく聞くことはなかった。
デュドネに居続けた理由がフェリシアのせいだった気がしてならなかったから、答えを聞くのが怖かったのもあった。
それが答えだとしたら、ずっと苦しい思いをしてでも側に居続けてくれただけで、フェリシアは嬉しくて仕方がなかったのと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまっていただろう。
(もっと、しっかりしなきゃ)
フェリシアは、幼なじみと離れることになってから、そんなことを思うようになった。幼なじみが遠くに行ってしまったことにフェリシアは、落ち込むのをやめられなかった。
それを見ていた彼女の婚約者は、フェリシアにとって大事な人だと理解してくれた。
「幼い頃から一緒にいたなら、離れるのは辛いな」
「シプリアン様」
「それに病弱な幼なじみなら、なおさら心配するのは無理はない」
「……」
病弱な幼なじみを心配しているだけだと思ってくれたのだ。
(この方は、変な誤解も勘ぐりもしないのね)
それによって、婚約者のことを散々なまでに見た目が良くとも中身は残念なはずだと思っていたのを改めることにした。
益々幼なじみの顔を見たくて仕方がなくなったが、そんな顔を誰かに見せることはなかった。
婚約者がフェリシアを見て、安心させるように笑顔を見せてくれるだけで、フェリシアは自分が救われる気がした。
(あの笑顔は、本物よね。私のことを彼ならわかってくれる。そんな気がする。幼なじみが側にいなくても、大丈夫なはずよ)
もっとも、フェリシアの婚約者だとわかっていても、フェリシアに微笑んでいるのにその笑顔を見た令嬢たちが、黄色い声をあげているのが耳障りではあったが、シプリアンの周りは常にそんな風に彼に見惚れる令嬢ばかりで、キャーキャー騒ぐのはいつもの光景でしかなかった。
それを日常だと思っていて、彼もほっといていた。フェリシアも、そういうものだと思って放置していた。その辺の図太さは、かなりなものがあった。
婚約者の追っかけなんて、フェリシアはどうでもよかった。中にはフェリシアが婚約者になったことで、色々と言っているのもいるようだが、そんなこと言えるような令嬢ではないと周りに笑われていて、勝てないと思った者たちは、次第に大人しくなっていくのも、大した時間ではなかった。
そもそも、そういう令嬢たちをフェリシアがまるっと無視していたこともあり、そのうち努力も惜しまなくなったフェリシアに益々叶わなくなって黙るしかなくなったようだが、フェリシアは喧しい時から大人しくなっても、さして気にはしなかった。
そんな令嬢たちに構ってる余裕なんてなかった。フェリシアは時折、襲ってくるどす黒い感情に飲み込まれそうになるのを抑え込むことに必死になっていたことが大きかった。
(こんな感情に飲み込まれてばかりいられないわ。私ができることをしなきゃ)
そこから、努力を惜しむことなく婚約者の隣に立ち続けるに相応しい令嬢となるべく、頑張ることをやめることはなかった。
それが、自分の幸せに繋がっているのだと信じて疑っていなかった。その先に望む明るい未来があるのだと思っていたが、聖女が現れておかしなことになるとは、この時は欠片も思ってもみなかった。
それこそ、もう何度も同じことを繰り返していて、どす黒い感情に飲み込まれてはやり直していることにも気づいていなかったが、少しずつ違う未来に塗り替わり始めていることにも気づいていなかった。
幸せを絵に描いたような夢物語のような未来しかないと思っていたが、必ず現実になるとフェリシアは信じていた。
それが夢に描いた通りより、もっといいものになるとは思ってもいなかった。
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