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第1章

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フェリシア的にはただ元気がありあまっているだけだと近しい人たちには、幼い頃はよく思われていたが、それに何かしらの意味があったことを知ることはなかった。

本人も、周りよりもやたらと元気な理由をちゃんと受け止めて理解しきれていなかったのも大きかった。

なにせフェリシアは成長するにつれて、元気があり余っていることが嘘のように普通になってしまっていたのだ。

学園に入る頃には、お淑やかで物静かな令嬢として有名だった。昔、お転婆をしていて母親やメイドにどれだけ嘆かれたかを知る者以外は、そんな姿を想像できる者はいないほどの変わりようだった。

その元気があり余っている分を無意識にアルセーヌにあげていたことをこの頃のフェリシアは知りもしなかった。

そう、幼なじみにとって命の綱を握っていたのはフェリシアであり、フェリシア自身にとって自分の命そのものよりも、彼の方が大事だと言えるほどだったのが、その言葉通りだと気づいていなかった。

少なくとも、フェリシアの方はよく知りもしないまま、彼に会いたくなって我慢できずに通っていたにすぎなかった。


「今日も、来てくれたんだね」
「何だか無性に会いたくなってしまったんだもの」
「ふふっ、そっか。僕が、暇だと思ってしまったから、呼んでしまったのかもね」


アルセーヌは、よくそんな冗談を言っていた。それを見てフェリシアは、たまらなくなった。


「アルセーヌ。もっと、わがままでもいいと思うよ」
「僕は、十分にわがままだよ。毎日のようにフェリシアに会いたいと思ってしまっているんだから」
「そんなのわがままにも入らないわ。だって、私だって会いたいって思ってるんだもの」


彼女の幼なじみの侯爵家の長男のアルセーヌは、男の子として同い年に生まれたが、女の子のようにお淑やかだった。

この頃の彼は、成長してお淑やかになるフェリシアを儚くした感じだった。顔立ちも男の子というより、可愛らしいか弱い女の子にしか見えなかった。

服装で、男女がわかっていたが、フェリシアも見た目が良かったこともあり、男の子の格好をしていたら、フェリシアの方が男の子に見えたくらいだった。

フェリシアは、アルセーヌを見本にしたつもりはなかったが、幼なじみとして見慣れた姿に女性として見本とすべきところがあるように見えていたのかもしれない。

病弱でどこにも出歩けないアルセーヌとは違い、フェリシアは有り余る体力が落ち着いてからもはしゃぐこともせずにゆっくりと動くことを心がけたことで、それ相応の公爵家の令嬢に見えるように成長していくことになったのだ。

幼なじみとのこの出会いがあったからこその成長だったが、それを周りが認めることはなかったが。病弱な子息から教わることではないと思われていたようだ。

そんなことを密かに勉強していたなんて、幼なじみに知られたら立ち直れなくなりそうなので、フェリシアがそのことを言葉にすることはなかった。


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