10 / 57
第1章
1一3
しおりを挟むフェリシア的にはただ元気がありあまっているだけだと近しい人たちには、幼い頃はよく思われていたが、それに何かしらの意味があったことを知ることはなかった。
本人も、周りよりもやたらと元気な理由をちゃんと受け止めて理解しきれていなかったのも大きかった。
なにせフェリシアは成長するにつれて、元気があり余っていることが嘘のように普通になってしまっていたのだ。
学園に入る頃には、お淑やかで物静かな令嬢として有名だった。昔、お転婆をしていて母親やメイドにどれだけ嘆かれたかを知る者以外は、そんな姿を想像できる者はいないほどの変わりようだった。
その元気があり余っている分を無意識にアルセーヌにあげていたことをこの頃のフェリシアは知りもしなかった。
そう、幼なじみにとって命の綱を握っていたのはフェリシアであり、フェリシア自身にとって自分の命そのものよりも、彼の方が大事だと言えるほどだったのが、その言葉通りだと気づいていなかった。
少なくとも、フェリシアの方はよく知りもしないまま、彼に会いたくなって我慢できずに通っていたにすぎなかった。
「今日も、来てくれたんだね」
「何だか無性に会いたくなってしまったんだもの」
「ふふっ、そっか。僕が、暇だと思ってしまったから、呼んでしまったのかもね」
アルセーヌは、よくそんな冗談を言っていた。それを見てフェリシアは、たまらなくなった。
「アルセーヌ。もっと、わがままでもいいと思うよ」
「僕は、十分にわがままだよ。毎日のようにフェリシアに会いたいと思ってしまっているんだから」
「そんなのわがままにも入らないわ。だって、私だって会いたいって思ってるんだもの」
彼女の幼なじみの侯爵家の長男のアルセーヌは、男の子として同い年に生まれたが、女の子のようにお淑やかだった。
この頃の彼は、成長してお淑やかになるフェリシアを儚くした感じだった。顔立ちも男の子というより、可愛らしいか弱い女の子にしか見えなかった。
服装で、男女がわかっていたが、フェリシアも見た目が良かったこともあり、男の子の格好をしていたら、フェリシアの方が男の子に見えたくらいだった。
フェリシアは、アルセーヌを見本にしたつもりはなかったが、幼なじみとして見慣れた姿に女性として見本とすべきところがあるように見えていたのかもしれない。
病弱でどこにも出歩けないアルセーヌとは違い、フェリシアは有り余る体力が落ち着いてからもはしゃぐこともせずにゆっくりと動くことを心がけたことで、それ相応の公爵家の令嬢に見えるように成長していくことになったのだ。
幼なじみとのこの出会いがあったからこその成長だったが、それを周りが認めることはなかったが。病弱な子息から教わることではないと思われていたようだ。
そんなことを密かに勉強していたなんて、幼なじみに知られたら立ち直れなくなりそうなので、フェリシアがそのことを言葉にすることはなかった。
52
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
【完結】婚約破棄にて奴隷生活から解放されたので、もう貴方の面倒は見ませんよ?
かのん
恋愛
ℌot ランキング乗ることができました! ありがとうございます!
婚約相手から奴隷のような扱いを受けていた伯爵令嬢のミリー。第二王子の婚約破棄の流れで、大嫌いな婚約者のエレンから婚約破棄を言い渡される。
婚約者という奴隷生活からの解放に、ミリーは歓喜した。その上、憧れの存在であるトーマス公爵に助けられて~。
婚約破棄によって奴隷生活から解放されたミリーはもう、元婚約者の面倒はみません!
4月1日より毎日更新していきます。およそ、十何話で完結予定。内容はないので、それでも良い方は読んでいただけたら嬉しいです。
作者 かのん
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる