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第1章
1一1
しおりを挟むデュドネという国の公爵家の長女として、フェリシアは生まれた。
そのため、フェリシアをよく知らない者たちは、好き勝手に憧れ、羨ましいと思う環境に生まれ落ちた。
でも、フェリシアはそんな環境に物心つく前から不満があった。あげたら、きりが無いほどの不満が、フェリシアにはあった。
それは、同じ人生を何度もやり直していないと出てこないような事細かな不満だったが、フェリシアにやり直している記憶はなかった。
ないはずなのに上げだした終りがなくなるほどなことにフェリシアは首を傾げたくなった。
(ないものねだりって、やつかな?)
周りにとって羨ましすぎるように見えても、フェリシアには羨ましすぎるとは欠片も思えなかった。
むしろ、枷をはめられているような窮屈さを感じていた。
(しょみんにうまれたかったな)
人間なんて、そんなような不満を探せば、いくらでもあるものなのだろうが、フェリシアにはこの国にいるだけでも、溢れてくる泉のような不満が彼女の中にいつもくすぶっていた。それが湧き上がるたび、いや、本人が気づく前に落ち着かせる存在がいたことで、どうにかなっていた。その存在がなければ、大惨事になっていたのは間違いないだろう。
それは、フェリシアが婚約する前からのことで、落ち着かせる役割を担っていたのは、婚約した男性ではなかった。
フェリシアは幼なじみに会いに行っていたことで、不思議と落ち着いていたようだ。ようだというのもフェリシアは、気づかないうちにその不満を溜め込み続けることがなかった。それがいい具合のガス抜きになっていたことに全く気づいていなかった。
ある時期、フェリシアは幼なじみに頻繁に会いに行っていた。それによってフェリシアの中にそういった感情が蓄積されずに上手い具合に発散されていたようなのだが、本人はそんなことをしているなんて思ってもみなかった。そのため、気づいていないまま過ごしていた。
幼なじみの名前は、アルセーヌ・ルノーと言った。
(アルセーヌに会いたいな)
何かあるたび、幼なじみのアルセーヌの顔が浮かぶようになっていたのは、いつからなのかをフェリシアははっきりとは覚えていない。
家で父や兄の機嫌がいいのを見て、フェリシアはイライラする毎日を過ごしていたが、幼なじみができてからは父や兄の機嫌がいいのを見ても、無視することが当たり前になっていた。
何が、そんなに苛つかせるのかかわからなかったが、余りある元気を爆発させても、まだおさまらないものがフェリシアの中にあったが、幼なじみになる子息に会ってからは、それが少しずつ落ち着くことになった。
アルセーヌは、フェリシアと違って病弱で家からどころではない。部屋の外にすら滅多に出れないほど、身体が弱い男の子だった。
彼は、フェリシアから見て柔らかな木漏れ日のような雰囲気を持っていて、癒しそのものでしかなかった。フェリシアからしたら、癒しでしかなかったのだが、それは周りも同じだと思っていた。みんな同じ印象を持って射ると最初の頃は信じて疑っていなかったが、そうではなかったことを思い知るまで時間がかかった。
そんな彼に幼い頃のフェリシアが度々会いに行っていたのは、フェリシアが物凄く優しいからではない。無性に会いたくてたまらなくなるだけだ。
周りはそんなことを知らないため、フェリシアのことを心優しい少女だと思っていたようだ。それも、色々と誤解しているだけだったのだが、誤解がきちんと解けることはなかった。
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