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第3章
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しおりを挟むどうやら、彼は前回失敗した真逆なことをしようとしたようだ。
そして、勉強ができすぎても行き遅れるだけだから婚約者にしてやるみたいに言って、やっと婚約できた令嬢に散々なことを言い続けて追いつめていたようだ。
そんなことばかりを言って、ろくに王太子として必要なことを彼女のように必死になって勉強しなかったのもあり、それにも色々と婚約者を悩ませたようだ。何なら、結婚したら妻となった王太子妃に色々やらせようとまでしていたのも、バレていたようだ。
(そんなこと目論んでいるのを知ったら、逃げ出したくもなるわよね。一生を台無しにされたくないもの)
「あからさまにされ続けたら、これから頑張って行こうなんて気持ちをになるわけないわよね」
「そうよね。無理やり立場を利用して婚約させられたら、逃げたくなるわ」
「大体、無能すぎるもの」
女性たちは、想い人と逃げた方を擁護する者が多かったが、逃げた方の家は令嬢と子息を勘当して体面を保つのに必死になっていたようだが、そちらにも白けた目が向けられている。
どうやら、相思相愛だということを両親は知っていながら、将来のためだと諭して無理やり王太子を選ばせたようだ。
(そんな風に親にまで外堀を埋められたら、逃げるチャンスなんて直前になっても仕方がないわよね)
リーリエは、見張られているのを感じながら逃げようとしていた時のウィスタリアが別の世界にいた時のことを思い出して、よくわかるとばかりにした。
そんな王太子をリーリエは見かけたことがあった。この世界では成長した彼には会ったことがなかったが、見ればわかるとずっと思っていた。
でも、そんなことはなかった。全くわからなかったのだ。
エルウッドの幼い頃とは、全然違っていた。
それはそうかも知れない。兄弟だから、兄のフロリアンに面影がどことなく似てくるものと思っていたが、そんなことはなかった。
頭の中でどんなに想像していても、経験したことが違うし、全く別の人なのだ。側にいる人たちも違えば、出会う人たちも違う。同じ双子ですら、そっくりな容姿をしていても、あんなに中身が違っていたのだ。
似ているだけの赤の他人が、兄のように王太子となっただけで、同じになれるわけがない。思い描いたように成長しているわけがない。昔をよく知っていると思っていても、話してみなければわからないことはたくさんある。
頭の中で想像していた通りではなかったことと、全く違う人生を歩むことに何とも言えない顔をよくしたが、自業自得でしかない。
それを物語るように老け込んだエルウッドを見ても、その人だとリーリエは気づかなかった。
その人は、お忍びで店にやって来てケーキを食べて帰って行った。
「なんか、根暗って感じのお客でしたね」
「ちょっと、そんなこと言ったら駄目よ」
ローザが新しく雇った若い子は、そんな感想を口にしたが、リーリエも同じことを思っていたのは内緒だ。
彼は、ウィスタリアが作っていたケーキと同じ味がする美味しいケーキを食べに来たなんて、その時は知りもしなかった。
だが、それが王太子で婚約が中々上手くいかず、王位継承権をそのうち自ら放棄して、彼の更に下の弟が王太子となったのは、それから間もなくだった。
その後、彼は田舎でひっそりと暮らすことにしたようだが、それを噂する者はいなかった。
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