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第3章
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しおりを挟むそんなことを思っても、リーリエはかつての知り合いがどうしているかを見に行く気には、どうしてもなれなかった。
今は、ウィスタリアではないのだ。中身が、ウィスタリアでも、今はリーリエだ。
そのため、全く新しい人生を満喫することにした。貴族の令嬢ではなくなったのだ。今は街に住んでいるただのリーリエだ。彼女が、頑張っても報われなかった人生より、もっと素敵な人生があるのだということを体験したかった。
王太子のことも、あのまま婚約したままだと思っていたが、そうならなかったことに理由を知りたくなったが、根掘り葉掘り探ることはしなかった。何もしていなくとも、話している人たちの言葉を聞いていれば、第1王子のようにはなっていないのだけは明らかだった。
それこそ、ウィスタリアの頃に覚えているままの彼が、そのまま大きくなっただけにしか思えなかった。
そんな中で、月日は更に流れた。
「リーリエ。本当に見に行かないの?」
「私はいいわ。店番してる」
「みんな、王太子の結婚パレードを見るのに夢中だから店なんか閉めたっていいって言われたんでしょ?」
「……」
それに答えずに曖昧に笑った。答えたら、理由を話さなければならない。リーリエは嘘をつきたくなかった。
「まぁいいわ。それじゃ、私は他の友達と見てくるわね」
「うん。ゆっくりして来ていいからね」
リーリエは、王太子がジュニパーと婚約破棄してから、長らく婚約しなかったが、ついに婚約しただけでなく、結婚できるまでになったのだ。王妃の出す問題に合格したとなり、街は大騒ぎになった。
まぁ、何はともあれ、婚約者が決まった以上に結婚が決まったことで、国民は喜んだ。
リーリエも、他の店と同じく、お祝いだからとローザと店のメニューをそういったものに変えようとして、あれやこれやと考えたりしたが、どうにもリーリエは乗り気になれなかった。
「リーリエ。どうしたんだい?」
「え?」
それでも、普通にしているつもりだったが、ローザにはリーリエが普通にしているように見えなかったようだ。
「いえ、あの、王太子は何で最初の婚約を破棄したのかと思って」
「リーリエは、田舎から来たから知らないのね。……この話は、他言無用だよ。街の連中も、しないようにしているから」
「?」
「……王太子と前の婚約者は、お互いに勉強が嫌いだったみたいだよ」
「え……?」
(勉強??)
ローザいわく。婚約になれば、好き勝手なことができると思っていたが、そうはならなかったことに元婚約者と王太子は言い争うことになったようだ。
「っ、」
「その時、婚約していた令嬢は支えきれなかったみたいでね。それどころか。その令嬢とウィスタリア様は、親友だったらしいんだけど、亡くなったばかりなのに悪口ばかり周りに言っていたそうだよ。そこから、勉強が嫌いで、お妃教育が全く進んでないことがわかって、婚約破棄になったって噂だよ」
「……」
それを聞いて、リーリエは……。
(何であの女と婚約したりしたんだか)
「あの、どうしてそんな人と婚約したんですか?」
「自分が勉強そんなに好きじゃないから、自分よりもできないのを婚約者にしたって話だよ」
「……」
それを聞いて、さっぱり昔と変わっていなかったみたいだと思ってしまった。それなら、勉強を自分が頑張ればいい話なのにそれをせずにできないのを選ぶ辺りが記憶の中の気に入らないとものを投げてくる彼を彷彿とさせた。
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