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第2章

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ウィスタリアが、自ら死を選んだ後、彼女の前の世界で妹にそっくりな彼女は、死んだはずなのに何事もなかったように目を覚ました。


「あれ?」
「っ、!?」
「ねぇ、何があったの?」


元婚約者そっくりな彼は、婚約者が目を覚ましたことにすぐに駆け寄って抱きしめたが、プリムローズそっくりな女性に聞かれて……。


「……あれ?」


答えようとしたのに答えられなかった。何があったかを見ていたはずなのに覚えていなかったのだ。


「ちょっと! 何で、押さえつけるのよ!!」
「え? あぁ、悪い」


マリカの言葉にレンは、理由がわからずに思わず謝りながら手を離した。

マリカは、プンプンと怒りながら腕が痛いとぼやきながら、何でこんなとこにいるのよとぶつくさ文句を言いながら居なくなった。


「ウィスタリア様は?」
「ウィスタリア様……?」


プリムローズにそっくりな彼女は、ハッとした顔をして、きょろきょろとした。

婚約者にウィスタリアは、どこなのかと聞いたのだが……。


「ウィスタリア様って、誰のことだ?」
「え……?」


ソレムにそっくりな男だけでなくて、プリムローズにそっくりな彼女以外の誰もウィスタリアという名前に聞き覚えがなかった。それに何とも言えない顔をした。


「何で? 天姫様のこと、みんな忘れてしまったの?」
「天姫様なら、第一皇子と一緒にいる方だろ?」
「っ!?」


プリムローズにそっくりな彼女は、婚約者の言葉に信じられない顔をした。彼女以外の誰もが、ウィスタリアのことを覚えていなかったのだ。


「レン様は、覚えてますよね?」
「……」


縋るように見たが、レンも覚えてはいなかった。

ウィスタリアのことを覚えているのは、彼女の妹にそっくりな彼女だけしかいなかった。

天姫はジュニパーとなり、彼女を選んだ第一皇子のランが皇太子となったが、2人共、病が良くなることはなく、悪化していくことになり、名ばかりのままだった。


「病を治すはずなのに自分が病になって、おかしな天姫様がいたもんだな」
「皇太子も、側にいて伝染ったとか聞いたが、あれは伝染るもんじゃないだろ?」
「でも、皇太子は伝染されたとかいってるらしいぞ」


ランが皇太子となるも病のせいで、部屋から出て来なくなっていた。それは、ジュニパーも同じで天姫として病の人たちを癒すなんてできる状態ではなかった。


「第二皇子が王位継承権を放棄しなきゃ、使えない皇太子なんてすぐにすげ替えられたのにな」
「第二皇子の方が病が重かったはずなのにすっかり治ったなんて、不思議だよな。あちらには、天姫がいなかったのに」
「だよな」


国民は、そんな風に揶揄っていた。でも、それが2人の耳に届くことはなかった。

2人共、念願叶ったものを手にしたはずが、病のせいで光が、眩しくて仕方がなくなり、己の顔を見るのも怖くてできなくなっていた。


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