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第2章

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どんなに頑張って生きても、あの人がいない世界なのだ。

それがわかってしまって、辛くなってしまったのとフロリアンに似ていたあの子息との年の差もあり、彼が年相応と令嬢と婚約するのを見るのが何より辛かった。

彼にウィスタリアが選ばれるとは思っていなかったのも大きかった。どんなに意気投合しても、選ばれるはずがないと思っていた。


(ここに来てからも、私はあの頃と何も変わっていない。変わらなきゃ、もう、あの頃とは違うのよ。初めたのは、わかっての意思。やりきらなきゃ)


今のウィスタリアなら、それが妹の望みだろうと抵抗なく死ぬことはなかった。それで得た未来で幸せになんてなれるわけがないとそもそも思っていた。

わかっていながら、妹の望みを与えたのは姉として間違っていた。話したところで永遠にわかりあえないと諦めてしまったのだ。そして、手に入れたかったものが、再び上手くいかないことになるのを恐れたことで、あんな結末を迎えたのだ。

全ては想い人と添い遂げられないことを受け入れて、何もかも諦めたくなってしまったせいだ。

それに妹を利用したのだ。そのことにウィスタリアは気づいてしまった。


「ウィスタリア様」
「……私は、自分のことを天姫だと思ったことは一度もありません」
「当たり前だ! 人殺しが、天姫なわけがない!!」
「そうだ!!」
「私は、誰かを殺したことはありません。殺されたことはあっても、殺したことは一度もない」
「え?」
「私は、殺されたから、ここに来た」
「「「「「っ!?」」」」」


ウィスタリアの言葉を聞いている者の大半がぎょっとした。


「そんな私が、天姫であることを証明しようとして、毒を飲ませる? おかしいと思わないのですか? それをやるなら、天姫ではないと知らしめるために行動する人がいるとどうして思わないのでしょうね」
「なっ、それは、もう1人の本物の天姫が、こんなことをしたとでも言って逃れるつもりか!?」
「犯人探しをなさりたいのなら、やればいい。でも、彼らを治療するのに口出ししないで」


ウィスタリアは、久しぶりに怒りを感じていた。もっとも見目が劣ると言われた時の怒りとは、別の怒りだ。あの時も腸が煮えくり返りそうになったが、今は自分の中でも一番の怒りを覚えている。


「私に何ができるかはわかりません。何も役に立てる事ができないかも知れない。でも、全力を尽くして治療します。私にあなたたちを治療させてもらえませんか?」
「っ、」


苦しむ人たちにウィスタリアは、そう言った。それは本心からだった。

それは、これまで以上のものだった。この世界で、謂われなく苦しむ人たちを全員助けたいとウィスタリアは、初めて心から思った。


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