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第2章

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あの世界で、ウィスタリアが婚約破棄して、妹に殺されてから何があったかを全く知らないまま気づけば、ウィスタリアは、そこにいた。

変な部屋にいたことも、光り輝く門に飲み込まれたことも、ウィスタリアは綺麗さっぱりと忘れて、そこにいた。

目が覚めたのだが、奇妙な感覚がしてならなかった。死んだはずなのに生きているのだ。まるで仮死状態から目覚めたかのように身体が少しばかり軋んだが、それでも動けないほどではなかった。

そう、動くのに時間を要しても自分1人で動けるくらいだった。それこそ、寝すぎて怠いのと似ていると他の人なら思うところだが、生憎とウィスタリアは寝すぎて怠いなんて経験を生まれてこの方したことがなかった。

逆に睡眠時間は必要最低限で過ごしているため、そんなことをしてみたいと思ったことがあるくらいだった。


(……私は人生を終えたのよね? 変だな。さっきまで、別のとこにいた気がする。……ん? 別のとこ??)


そこで、ウィスタリアは行き先で粘っていたような……?でも、粘るなんておかしすぎる。


(夢ね。そう、夢に決まってる。天国行きをごねる夢なんて、私も何やってるんだろ。……まだ、死にたくなかったってことかな?)


なぜ、ごねていたかは全く覚えていなかったが、行き先に不満があったような気がしなくもない。

そこで、首を傾げた。


(あれ……?)


死んだはずなのにウィスタリアは、見慣れぬところで目を覚ましたのだ。ふかふかのベッドから見える景色は、見慣れたものではなかった。ふかふかしているが、物凄く寝心地のいいベッドも、ウィスタリアのお気に入りのベッドではないのは明らかだ。どちらが、いいかと甲乙つけがたいほど、どちらも良かった。

忙しすぎるウィスタリアのためにソレムの両親が、少しでも快適に過ごしてほしいと部屋を与えてくれたが、その中でも短時間でも疲れが取れるようにといいベッドを買ってくれていた。


(あれは、ありがたかったわ。でも、せっかく買ってくれたのに。あまり堪能できなかったのよね。破棄になったから、やっと堪能できると思っていたのに。婚約破棄されても忙しくて、やっと堪能できると思って眠るのを楽しみにしていたのに)


そう思いながら、今寝ているベッドも中々だなと思って、あれ?と何度目になるか。疑問が生まれた。

ベッドの快適さなんてことを考えるより、もっと大事なことがある。

そう、それは……。


(装飾が異国風ね。珍しいわ。……もしかして、ここは隣国??)


何があったかを忘れているつもりはない。覚えているつもりでいたが、抜けているところがあることに気づくことはなかった。

そこで目覚めたウィスタリアは、ベッドの良さを比べていたが、部屋の中を見て、装飾一つで混乱した。いや、装飾以前に頭の中は混乱していたが、本人は気づいていなかった。


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