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第1章

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プリムローズは、姉を亡くしてショックを受けている令嬢を演じるはずだった。ない頭でも、それを演じたら、みんながいっぺんに味方になると思ってのことだ。彼女にしては、考えている方ではあった。

だが、味方してくれていると思っている時点で、その前まで味方ではないとわかっていたのかと言うとそうではなくて、言葉のあやでしかなかない。

もっとも亡くすも何も、亡き者にしたのは彼女自身なのだが、プリムローズは上手くいきすぎたことが嬉しくなりすぎて、にこにこと笑顔になっていた。そのまま、姉の葬儀に出たのだ。目立たないわけがない。


「何、あれ」
「可哀想に。流石に姉が亡くなっておかしくなったんだな。無理もない」
「前からおかしかったけど、そう。流石にウィスタリアがこんな形で亡くなったら、ショックよね」


色んな人たちに噂以上に頭をおかしくしてしまったと憐れんだ目で見られることになったり、それを見て益々、泣く者もいた。

プリムローズは、周りに盛大に勘違いされていることに全く気づくことはなかった。

彼女の頭の中は、ソレムと幸せいっぱいに過ごす妄想ばかりで、現実を全く見ていなかった。そんな令嬢に妄想通りの未来が訪れることはなかった。

そんな娘を両親だけが怪訝な顔をして見ていた。これまでのことがある。姉の死でおかしくなるなど、あり得ないと思ってのことだ。

だが、母方の祖父母だけがプリムローズを可哀想にと抱きしめていた。それは異様な光景だった。

祖母は泣き真似をしているが涙が一切出ないままだった。抱きしめられる孫は、にこにことしていて、時折ニヤニヤした顔をして、それには会場全体の人たちがドン引きした。


「可哀想に壊れたな」
「あんな顔、まともな令嬢なら人前でできないよな」
「泣きたいのを彼女なりに我慢しているのね」
「無理することないのに」


これまた、プリムローズは勘違いされていた。

ウィスタリアが人前ではやるなと言った顔をして、気を変にしたと思われるのにぴったりな顔だったのは、確かだ。それでも、まともじゃなくなった状態だからと思われていた。

そんなことがあって、数日してプリムローズは色んな人に心配されていた。

葬儀に来ていなかった者も、その時のことを聞いて、そんな馬鹿なと思っていたようだが、みんながそういうのだからとプリムローズは、色んな人たちに気にかけられていた。

全てが勘違いなのだとも知らずにみんなおかしな格好をしているのも、悲しみをごまかそうとしているのだと普段を知らない者たちには勘違いされるほど、いいようにとられていた。










一方のソレムは、ウィスタリアが死ぬ前、婚約破棄した日に婚約しようとしていた令嬢に声をかけていた。

その令嬢には既に婚約者がいたことを知らなかった。その令嬢が駄目だったとしても、ソレムの頭の中にプリムローズを婚約者にしようとはほんの一欠片も考えていなかったことをプリムローズは知りもせず、理解すらできなかった。

姉の葬儀を終えて、数日は大人しくしていたが、待てど暮らせども、ソレムが自分のところに来ないのだ。

それどころか。他の令嬢のところに行って婚約しようとしているとわかって、プリムローズは眉を顰めずにはいられなかった。


「何で、他の女のところに行くのよ」


それどころか。ウィスタリアに妹がいることは知っていても、その妹の名前が何だったかすら、ソレムは残念なことに知らなかったというか。覚えてすらいなかった。

プリムローズの名前は知らずとも、顔を見て思い出したことがあるとすれば、物凄く馬鹿な令嬢だと周りから言わていることくらいだった。

それを覚えているだけでも、彼にとっては凄いことだったが、そんな覚えられ方をしている方はたまったものではない。

それこそ、ソレムには他の人なら言われたくないところだが、唯一言われる相手がいるとすれば、プリムローズしかいないくらい。周りからすれば、どっちも、どっちだったが、本人たちからしたら、そうではなかった。死活問題だった。

そう、ソレムは頭が空っぽに近いというのにプリムローズのことをあり得ないほどの馬鹿な令嬢だと言うことは知っていたというのだ。皮肉なものだ。


「まぁ、何でもいいが。私は忙しいんだ。気安く話しかけるな」
「っ、」


そんな覚え方しかされていなかったことすら知らなかったプリムローズは、あろうことか。その手で姉を殺したのだ。

ソレムと一緒になって誰よりも幸せになるに相応しいのは自分しかいないと思って、そんなことを平然とやったというのにだ。

そして、両親も嫌な予感をしながら隠蔽することに手を貸した。亡くなった娘を守るためにしたかのように見せて本当に守ろうとしたのは、家の存続だった。

そう思いたくなくて、出来の悪い娘のやらかしたことをいつものようにもみ消しただけだと思いたかったようだ。

それだけで、両親を苦しめるには十分だった。それなのにプリムローズは、そんな苦しみを感じることすらなかった。


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