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第1章
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しおりを挟むその騒ぎが、国王と王妃の耳にも入り、王太子はそれでも冗談だと思っていた。
「エルウッド。あなた、亡くなった令嬢と知り合いだったの?」
「兄上と城を抜け出した時に遊んだことがあります」
「まぁ、あの子と? それで、受け入れがたいのね」
「その令嬢は、まことに死んだのだ。エルウッド、現実を受け入れろ」
国王と王妃にも同じことを言われ、そんなわけがないと騒いだ。
「エルウッド。あなた、その令嬢が好きだったのではない?」
「いえ、彼女を好いていたのは、兄上です。なのに王太子となった途端、私の婚約者候補になって、簡単に何でもできるのを証明しようとした。嫌味な女です」
エルウッドは、聡明な兄と渡り合う知識を持つウィスタリアが、嫌いだった。遊んでいても、わけのわからない話で盛り上がるのだ。エルウッドは、己のことを2人で馬鹿にしているとしか思えなかった。
「嫌味な女だなんて、あなた、その令嬢が何をしていたか知らないの?」
「?」
「この国と隣国とで、事業をやることになったが、その令嬢がいたからこそ、先の見通しが立った。まさか、それも知らないのか? 執務をしていたのだろ?」
「え? あ、いや」
「勉強は? 学園の授業にも出ずに没頭していたのだ。さぞかし、進んだのだろうな?」
「あ、いえ、その……」
エルウッドは、執務は側近たちにほとんどやらせていた。面倒だからとサインの偽装まで覚えさせてやらせていたことや古代語もやっているふりばかりだったことがわかったのは、そこからすぐだった。
それを知った国王と王妃は、激怒した。何より、ウィスタリアとは幼い頃遊んだことすらある知り合いだったのに冗談だと思い込んで葬儀に出ないだけでなく、学園で奇行をして、嫌味な女とまで言ったのだ。
しかも、そんなことから婚約者に選ばれなかったことを知ることになり、頭痛を覚えずにはいられなかった。
自分より勉強ができるのを婚約者に選べば、できないことが目立ちすぎて馬鹿にされるから、選びたくなかったのだ。
ジュニパーを選んだ理由は、顔でも、性格でもなかった。ただ、ウィスタリアを選びたくなくて、あと1人しか残っていなかったから、そちらにしただけだったのだ。
辞退して残っていることも知らず、その令嬢に関する書類も目を通すことなく決めたのだ。そして、これまで婚約した時以来、この日会うまで放置していたのだと聞いて、王妃は目眩を起こした。
「お前が、そこまでだったとは……」
「なんてこと。こんな子のためにお妃教育を何年もさせていたなんて……」
そこで、悔やんでいるのを見て、言わないわけにはいかなかった。
側に控えていた者が、今を逃しては伝えられないと前に出た。
「恐れながら、王太子と婚約なさったジュニパー様ですが……」
「放置されていて、心を病んでいるの?」
「は? あんなに肥え太っていて、それはありえませんよ」
「エルウッド。なんてことを言うの」
「そうだぞ。気にもかけないお前のようなものに選ばれたのだ。ストレスがたまらないわけがない」
「っ、」
エルウッドは思わず言葉にして、国王と王妃に睨まれて黙ったが、事実なのにと心の中でぼやいていた。
「続けろ」
「はい。その、ジュニパー様ですが、お妃教育は全く進んでおりません」
「「は?」」
国王と王妃は、目を点にしたがエルウッドだけが、それを聞いてほら見ろという顔をしていた。
「学園の授業についていけておりません。卒業も、無理だとが。それにお妃教育も、授業を゙座って聞いているだけで覚える気がないようです」
「……それは、いつからなの?」
「はじめからだそうです。お妃教育を受けたら、お菓子を食べれると思っているようでして」
「それで、肥えたのか。最悪だな」
「お前が言うのか? どんな風に選ぼうとお前に一任したんだ。責任は、お前が取れ」
「は? 責任と言われても……。あ、なら、破棄します。あんな醜い女を隣に立たせたくないので」
「婚約して、数年も経つというのに。その間、したくもない勉強をさせておいて、それなのですね。なんと情けないのかしら」
「はぁ、こんなのに任せていた。私にも責任があるな。お前も、卒業が危ういと聞いた。婚約破棄をしたいなら、卒業してからにしろ」
エルウッドは、そんなの楽勝だと思っていた。だが、勉強嫌いな息子が学園の試験の成績だけがいいのを不審に思っていた。
その勘はあたっていた。替え玉を使って試験を受けさせていたのだ。それをさせなければ、成績は酷いなんてものではなかった。
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