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第1章
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しおりを挟むでも、プリムローズの思っていた方向に物事が進むことはなかった。これまでも、そうだった。プリムローズがすることなすことで、上手くいったことなど一つもなかった。それを彼女は都合よく忘れていたり、記憶を書き換えて覚えていた。
その中でも、一番強烈に残っているのは姉に邪魔されてばかりいたというものだった。姉のせいにしていれば、自分ができなさすぎることをどうにかできるかのようにしていた。
そんな都合のよいことばかりいたせいで、学園でも友達なんていなかった。いなかったというか。できなかった。
「お姉様の方は、あんなに素晴らしいのに」
「あれが、妹?」
「ウィスタリア様も、大変ね」
好きな格好をしているだけで、馬鹿にされるのだ。プリムローズは、それも全て姉のせいだと思っていた。
その姉が死んだのだ。その上、ウィスタリアの死は事故死となり、プリムローズは自分の思惑通りにことが進んでいるとウキウキしていた。
姉が死んだばかりで、そんな態度をしていれば目立たないわけがない。
「あの子、大丈夫かしら?」
「実のお姉さんが亡くなったから、流石におかしくなったのかも知れないわね」
「まぁ、まともだったかは怪しいけど。でも、そう。姉を思っておかしくなれるくらいは、姉のこと好きだったってことよね」
「……」
そんなことを言う令嬢たちの声が聞こえた令嬢たちも、何とも言えない顔をした。
普段からおかしいのだが、更におかしいのだ。それが、姉が死んだことを悲しんでのことだと言われれば、そう見えなくもない。
「悲しんでいるというか。喜んでいるようにも見えるけど」
「流石にそこまでではないだろ」
「そう、よね」
マルグリットが、ぽつりと見えるままを言葉にしたが、流石にないと否定されて、それを考えるのはやめた。それは、常識のある人間が考えた答えだったからに他ならなかった。
あり得ないことが答えだったなんて、誰が思うだろうか。
そんなプリムローズを見ていられないと泣き出す令嬢は多かった。
「ウィスタリア。約束したのに」
「約束って?」
「ウィスタリアが、忙しくしていたから、誕生日のプレゼントはいらないから、その分をまとめて結婚式に頂戴って言っていたの。あの子のお手製のウェディングケーキよ」
「っ、」
「ウィスタリア様のケーキは、特別でしたものね」
「そうよ。私は、あのケーキが一番好きで、どんなプレゼントよりも、あのケーキを食べられたら、それで1年頑張れた。でも、寝る間も惜しんで忙しくして頑張っているのに誕生日だからとケーキをねだれなかった。だから、結婚式に作ってとお願いしたのに」
マルグリットは、泣くに泣けずにいた。それを聞いて泣く令嬢はいたが、辛すぎて受け止めきれずにいた。
そんな彼女は、ウィスタリアが死んだと知ってから殆ど食べれなくなっていて、婚約者に支えながら帰って行った。
そんな中でも、浮き足立っているプリムローズを見て、令嬢たちは残念な者を見る目をせずに憐れみを抱いた目を向けて見ていた。
事故死したと思われている中に自死したのではないかと言う者もいたが、ソレムとの婚約が破棄となったことで、喜んでも悲しみに暮れることはないと思われたことで、自ら死ぬことはないと思われた。
あの現場を目撃している者がいれば、プリムローズがしたことはすぐにわかったことだ。
それに姉妹の両親は、浮かれきっているプリムローズに不安を持っていた。誰よりも言いしれぬ不安があった。
「あなた。まさか」
「そんなはずはない。流石にありえない」
「そう、よね」
詳しく調べれば事故死ではなくて、殺害されたことがわかりそうだったが、それを両親はしなかったのはプリムローズが関わった気がしてならなかったからに他ならなかった。
両親がウィスタリアの死の真相を明確にするよりも、もみ消すことをしたのは、ウィスタリアが妹に殺されて死んだことが本当だとしたら、あんまりな最後になってしまう。
それよりは、事故死の方がマシだと思ってのことだった。そんな親心なんてプリムローズは欠片も気づいていなかったが、親心ではなくて体面を潰されたくなかっただけにすぎない。
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