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第1章
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しおりを挟む両親が思いの外、ソレムのしたことに激怒していた。親らしいところがあったのかと思えそうだが、そんなことはなかった。
怒るななんて言う気はないが、あの息子のせいで散々な目に遭っているのは、ウィスタリアだ。事業の見通しがついた途端に婚約破棄をして、手柄を独り占めするつもりだということで怒っているのだ。
それを見ていたら……。
(破棄になってよかったのかも知れないわ。結婚していたら、この人たちはもっと騒ぎそうだもの。私が婚約者候補に残った時もそうだった。事業の邪魔を絶対していた。それをしないなんてことできないはず)
ウィスタリアは身体的なことで、ソレムに腹を立てていたが、両親の怒り方を見ているうちに落ち着いてきていた。
思い出すと腹が立つがずっとそのことで腹を立て続けるほどの余裕はウィスタリアにはなかった。
(一番の想い人は、今の王太子ではなかった。似ているかも定かではないけど、別の人。……そう、今の王太子は第2王子。私が好きな人は……)
そこまで思って悲しくなりすぎて涙が溢れそうになった。
ウィスタリアが誤解していることをやっと認められそうになっていた。今の王太子が、第2王子と呼ばれていた頃に第1王子がいたのだが、それが3歳年上で、ずっとウィスタリアは2人ではなく、3人いたはずなのに記憶の中では、3人目がごちゃ混ぜになっていた。
第1王子と呼ばれていた彼をウィスタリアは好きだったのだが、突然亡くなったことで、そのショックから遊んでいた相手は、今の王太子だけだったと記憶が歪められてしまっていた。
でも、悲しすぎて亡くなったことをウィスタリアは受け入れられず、受け止められないまま、いずれ王太子になる方のためにと密かに婚約者になるべく頑張っていたことを記憶があやふやになってからも頑張り続けた。
そして、第2王子が王太子となってからも、王太子に相応しいあの人が未だに生きているかのように思いたくて、がむしゃらに婚約者になるために無茶なことばかりして、結局なれなかったことで、ショックを゙受けたまま、第1王子の死を受け入れられずにいた。
だが、今の王太子の婚約者を放置したまま、自分のことばかりに必死になっているのに疑問ばかりが生まれて、次第に記憶のあの人と今の王太子のしていることのギャップで、そんなことをする方を思い出していった。
遊んでいた頃は、ウィスタリアを気にかけてくれていたのだ。兄のようであり、柔らかに微笑む彼のまなざしは、妹を見守る者の目ではなかった。
愛おしいと物語っている人の目だった。
(あの方にもう一度会いたい)
未だに亡くなったことが心の傷になっていた。それが、第1王子との思い出だということに長らく気づかないようにしていた。
ウィスタリアは、そんなことを思って元気がないまま、すぐにソレムと婚約破棄することになった。
それにあちらの両親が息子が勝手にしたことだからとウィスタリアに平謝りして来たのも、すぐだった。ウィスタリアに破棄だけは思い留まってほしいと言って頭を下げられることになった。
それを見て、こんなことを思った。
(この2人は、物凄くまともに見えるのに彼は誰に似ているのかしらね。謎だわ)
でも、ソレムは両親がなぜ、そこまで必死になってウィスタリアを婚約者のままにしたがるのかがわからないような顔をしていた。それは見慣れた顔でしかなかった。
難しいことを聞かれたりする時は、いつもそんな顔をしていた。そして、何を言われているのかを勘違いして終わるのが、いつものパターンだった。
この時も、そのパターンから外れることはなかった。
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