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第1章
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しおりを挟む見た目がいまいちのようだと言われた言葉だけが、ウィスタリアの耳にずっと残っていた。
ふと、王太子の婚約者に選ばれなかったのは、顔や性格が一番ありそうだと言うのに行き着いたことを思い出した。
(好みのようになればチャンスがあったのなら、私が頑張るべきだったのは、勉強ではなくて、容姿についてだったことになる。それを頑張っていたら、王太子の婚約者になれていても、今の婚約者のようにお妃教育にはついていけていなかったはず。……どちらにしろ。私には、今の王太子の婚約者になるのは無理だったということよね。大体、勉強に己がついていけずに四苦八苦しているというのなら、同じくできない者を選んで誤魔化したというのもありそうよね)
あの人は、そんなことはしない。でも、もう1人の方は、そういうことをしそうなのがいた。遊び回って、やるべきことから逃げ回っていた方だ。
遊ぶために勉強をしてから、そうしていたことを見ようとせず、遊ぶことしか考えていない方で、ウィスタリアはそちらとは反りが合わなかった。
(私のことをきちんと理解してくれる人は、あの人だけだった。でも……)
どんなに王太子になるべきだったのは、そちらだと思っても、もういないのだ。それを受け入れなくては、先には進めないのだが、それでも未だに王太子として今も変わらず生きていて、会えないだけだと思っていたかった。
初恋の人への想いが、ウィスタリアの中にあり続けた。あの人は、誰を選んだのだろうか。
(やはり、私を選んではくれなかったかもしれない)
幼い頃に遊んだ時には、何のしがらみもなかった。その頃が、ウィスタリアの中で楽しくて仕方がなかったのもあった。ウィスタリアは、彼のことを兄として見てはいなかった。見たことなどなかった。
でも、彼にとってはただの遊び相手で、彼にとっては妹としてしか見てはくれていなかったかも知れない。
だけど、もう、どう思っていたかを本人には聞けない。
(何かを成すためには、何かを捨てねばならない。いつも、私の場合、逆な気がするけど。王太子との婚約が上手くいかなかった理由が、この事業のことだとしたら……。今回の婚約破棄で、私は他の欲しいものを手に入れられるということになるの? そうだとしたら、一体、何を得られるのだろう? ……私の一番ほしいものは、もう二度と手にはできない。もう、何を頑張っても会えない。……それとも、事業を成功させるために捨てることであり、王太子との婚約が上手くいかなかったのは、別のことに繋がるの……?)
ウィスタリアは、自分のことになるとわからなくなってしまい、決めつけすぎると道が狭まってしまう気がして嫌だった。
ふと、王太子の婚約者となったジュニパーのことを思い出した。
(そういえば、あの令嬢は幼い頃に出会った時は私のことを私より知っているようにしていた。無意識にしていたようだけど。いつから、あんな風に私のことを嫌っていたのだろう? 初めて会った時と今では、別人のよう。一体何があったんだろう……? それとも、あれが本性だっただけで、私は騙されていただけなの?)
苦手なことも頑張っていて、お互いが理解しあえたと思っていたから、ウィスタリアは親友だとジュニパーのことを思っていた。
でも、婚約してから少しずつ親友だと言えないことばかりを始めていった。婚約者に選ばれたら途端、隠していたものを見せる気になったのかも知れないが、ウィスタリアは侯爵家の令嬢だ。ジュニパーは選ばれると少し前に養子になって伯爵令嬢になった。
あちらはウィスタリアが王太子の婚約者に選ばれると思っていたとウィスタリアにジュニパーが婚約した当初はよく言っていた。
「びっくりしたわ。だって、あなたが選ばれると思っていたのよ。みんなも、そう言っていたし」
(あれも、今思うと養子になってまで、辞退はしないと頑張っていたのに矛盾していたのよね)
彼女の両親は、辞退を勧めていたが、ジュニパーが頑なに拒んだのだ。そのため、叔母夫妻の養子にまでなり、実の両親とは縁を切ったのだ。
その時は、そこまで残ったのに辞退したくなかっただけだと思っていた。
でも、叔母夫妻はジュニパーが選ばれると思って養子にして、裏で金を渡して姪を婚約者にしてからはずっと利用しているようだ。
(……まぁ、そちらのことは、そちらに任せるだけ。私が考えても仕方がないのだけど。今のジュニパーを見ていると婚約して何がしたいのかがわからないのよね。婚約しても、お妃教育もきちんとせずに何で、そこまで婚約したかったのか。贅沢三昧をするにしても、勉強ができなければ、婚約者でいるのも難しい。何より結婚も、そう。わざとしているのかと思った時もあるけれど、あれは素なのよね)
ウィスタリアは、今更になって首を傾げていた。段々と勉強に追いつけなくなっていったというより、お妃教育が始まった時からやる気がなかったようにしか見えないのだ。
(全く何がしたいのかがわからないわ)
親友だとジュニパーは、ウィスタリアのことを今もよく周りに言っているようだが、ウィスタリアは親友だと言うことをしなくなった。
ジュニパーが、ウィスタリアの唯一の汚点に感謝してると他の令嬢たちと話していたのを耳にして以来、友達ともウィスタリアは思ってはいない。
(そういえば、お妃教育が忙しいからって、学園の試験でトップ10にも一度も入ったことがなかった。私が授業中に疲れ果てて眠っていても、先生たちですら起こさないでいてくれたのに。あの令嬢は、先生に失礼だからと無理やり毎回起こすのよね。彼も、起こしたことがあったけど、悪意があるのとないのとでは全然違うわ)
ジュニパーは、やることなすことウィスタリアのことでは、悪意しかなかったのは、周りも気づいていることだったが、お妃教育が忙しいと散々言って学園の試験もいまいちだとしたら、お妃教育が完璧になっていなければいけないはずなのにそれすらしていないのなら、婚約者になってから何をしているんだろうと思ってしまった。
(そういえば、シェフが作るお菓子を楽しみにしすぎて、体型が崩れたとか耳にしたけど。勉強もせずにそんなことして、婚約者であり続けるって、どうなんだろう)
普通なら、婚約者のうちから、そんなに大変なら結婚なんてしたら、更に大変なことになるからと解消してほしいと言いそうだが、ジュニパーは意地でもそれをする気がないようだ。
王太子の婚約者となり続けて何をしたいのかがわからなくて、首をひねるばかりだった。
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