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第1章

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「プリムローズ。他人に見せられる顔じゃないって何度も言わせないで!」
「はぁ? お母様は、そればっかりね。そんなこと言うのお母様だけよ」
「っ、他所でもしているの!?」


母は、信じられないと怒鳴っていた。

妹のニヤニヤした顔をウィスタリアは改めて見た。


(あの顔を他所で……。あれは、今期を逃すわね。これは、私がいくら頑張っても無駄だった気がする)


何度たしなめてもやめない顔を見て、ウィスタリアはそんなことを思った。でも、それを本人は鏡で見てみたが、問題ないと言うのだ。


(それは、そうでしょうね)


それは当たり前だ。鏡で見るとニヤニヤした顔ではよく見えないはずだ。そのため鏡を見るとそれなりに見られる顔になる。

見られると言っても、それはプリムローズの思う顔だ。一般的からしたらズレているが、そこは仕方がない。今している化粧が、見られるものだと思っているのだから。


(写真でも撮ったら、わかるのでしょうけど。そんなことで、写真を撮らせたら、笑いものになるだけよね。その写真の扱いにも困るし……。祖父母も、あんな格好させて、何で何も言わないのよ)


ウィスタリアは、そんなことを思いつつ、婚約破棄の後で、色んなことが発覚しすぎて疲れというか。頭痛がするというか。

ソレムの相手をするより、妹とは彼女が生まれた時からの付き合いだ。物心つく前から可愛がってきた。それが、数年の間、それまでの僅かな間、妹を両親や祖父母任せにしたら、こんなことになったのだ。

幼い頃に面倒を引き起こすのは、プリムローズではなかった。言葉巧みに祖父母がプリムローズを誘導して、大変なことになっていた。

でも、今はすっかり誘導されて育ったことで、妹自身が手に負えない存在になってしまっているのだ。

ソレムよりはかなりわかりやすい。未だに奇想天外な自分ルールで物事を見るせいで、ウィスタリアですら半分正解することも滅多にない彼よりは。

それでも、ソレムよりも妹の方がまともだ。……身内贔屓かも知れないが、あちらはプリムローズのように身内にいいように甘やかされたわけではない。

そこが、不思議でならなかったが、元婚約者になる子息のことなど、どうでもいい。それよりも、身内のことだ。


(私が卒業するまでに妹をどうにかしなくては。卒業まで、数ヶ月。それまでに次の婚約者が見つからなかったら、妹を連れて潔く修道院にでも入ろう。そこで数年すごしたら、妹の嫁ぎ先が見つかるかも知れない)


ウィスタリアは、自分の嫁ぎ先のことは土返しにしていた。

その前にもっとどうにかしなくてはいけないのは……。


(私が婚約破棄となったのが、首切りでも、見限られたわけでもはないとみんなにわかってもらわなくては。そうでないとあの家に迷惑がかかってしまう。そんなことで、せっかく軌道に乗った事業を台無しになんてさせられない)


でも、このあとでウィスタリアがとんでもない目に合うとは、この時は知りもしなかった。

それが、ソレムからではなくて、身内から無邪気な殺意を向けられるとは流石に思わなかった。


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