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第1章

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(大体、見た目がいまいちなんて、よく言えるわ。ご自分の顔を見たことがない、わけがないだろうけど。高望みし過ぎなのは、どちらかしらね。しかも、女性の身体をあんな風に眺め見て、馬鹿にするなんて信じられない。平手打ちの一つでもしてやるべきよね)


ウィスタリアは、そんなことを思ったが、もう既に一方的であろうとも、婚約者ではなくなるのだからと了承した。

心の中では、往復ビンタをお見舞いしてやりながら、本当に手を出すことはしなかった。ソレムの顔を見ていると手が出そうになるため、さっさと帰宅することにした。


(はぁ、こんな形で戻ることになるのは、想定していなかったわ。私も、まだまだね)


流石にソレムの言われたことに了承した。彼の家には戻れない。

ウィスタリアは、自分の家に戻ることになり、珍しくげんなりした顔をした。

あんなことを思っていた子息との結婚をさっさと済ませようとしていたのかと思うとそんな自分になんて早まったことをしようとしていたんだと思いつつ、自分のためではなくて、妹の今後のために仕方がなかったとも思っていた。


(色んな人に勿体ないと言われても、ひたすら頑張ったのに。馬鹿よね。こんな風に一番、婚約したくないと思われる子息から、婚約破棄されるなんて……。笑えないわ)


ここまで言われて婚約を破棄したくないとは思う気持ちは欠片も残っていない。

ソレムは、まだウィスタリアに言い足りなさそうにしていたが、そんな話を全部聞いてやる気は彼女にはなかった。

その逆に言いたいことをぶちまけてやりたくなったが、それをしないためにもさっさと帰ることにした。そんなことをすれば、ソレムと同じになってしまう。


(こんなののために私は、何をしていたんだか。ううん。この方のためではないわ。このまま帰ったら、両親に何を言われるかより、この先の事を考えなくては……。何もかも終わったら、修道院にでも行こう。できれば、このまま、修道院に行きたいけど、そんなことできない)


そんなことを思ってしまったが、それでは何の解決にもならない。逃げても仕方がないとばかりに家に帰ることにした。

突然、帰ったことにウィスタリアは物凄く驚かれた。当たり前だが。


「ウィスタリア? どうしたの?」
「あの、話があります」


ウィスタリアは両親にソレムから婚約破棄をしたいと言われたことを告げた。ついでに何を言われたかも話したのは、何があったかを聞かれてからだった。

聞かれるまで、何があったかを話すことはしなかったのは、言われたことを言葉にするのも腹が立つのが目に見えていたからに他ならなかった。

両親は、ウィスタリアからその話を聞いて物凄く怒っていた。


「散々、ウィスタリアに世話になっておいて、切り捨てるのか」
「本当に信じられませんわ。ウィスタリアが、どれだけあの家の事業のために尽くしてきたことか。あんなのの婚約者になっただけでも、辛かったでしょうに。可哀想なウィスタリア」
「あの家の息子が、あんなんだからな。そういう人間なんだろう」
「ソレム様の独断だと思います」


(彼の両親は、実の息子を切り捨ててでも、私を選んでくれる。でも、息子があんなことを言うとは思っていなかっただけよ。さっさと勘当したいのを私が止めていたのに。一生尻拭いするつもりはなかったけど、こんな風にあちらから婚約破棄されるとは思わなかった)


ウィスタリアは両親が、ソレムの両親をボロクソに言うのにイラッとしたが堪えた。今、あちらに味方したようなことを言えば、婚約破棄にはならないことになりかねない。

それこそ、ウィスタリアが自棄を起こしていなければ、あんなのと婚約してなかったとまで言うのだ。それにげんなりしてしまった。


(自棄なんか起こしていないわ。あなたたちに失望したのよ)


そう思ったが、それを言葉にすることはなかった。言葉にしたら、大変なことになるのは目に見えている。


「あら、お姉様。どうしたの?」
「プリムローズ、なの?」
「はぁ? やだ、数年ぶりだからって忘れちゃったの?」
「……どうしたの? その、」
「この服? お祖母様が流行りのものを取り寄せてくれたのよ!」
「……」
「あ、お化粧をしてるからわからなかった? ふふっ、これも、わざわざ取り寄せてもらったのよ。凄いでしょ?」


そう言って自慢気にする妹は、ウィスタリアの記憶の中にあるプリムローズとは似ても似つかなかった。あまりにかけ離れた姿に確認せずにはいられなかったが、本人だった。


(あんなに可愛いかったのに。一体、どこの流行りだと言われて紛い物を使うことになったのよ。そんな流行りなんて、聞いたこともないわ)


ウィスタリアは、この家をソレムと婚約すると決めてから出ることになって、帰っていなかった。その間、忙しくしていたせいで、妹と学園で会うこともなかったから、わからなかった。

何より、周りが会わせないようにしていることまではウィスタリアは気づいていなかった。


(そういえば、時々妹のことで、王太子の婚約者が色々言っていたけど、あれは私のことを馬鹿にしていたのね)


流行りだとプリムローズがいう服も、化粧も、酷いとしか言いようがなかった。

だが、両親はそんなプリムローズに慣れてしまったのか。何も言うことはなかった。それどころか。目も合わせず、話しかけることもしなかった。

まるで、いない者のようにする両親とそんなのいつものことだとばかりに好き勝手に話すプリムローズ。

ウィスタリアがいない間にこの家では、これが普通になってしまっていたようだ。


(なんてことなの。両親は、とっくにプリムローズのことをいないものとしていたなんて思わなかったわ)


無邪気にウィスタリアに話しかけるプリムローズに両親は……。


「いい加減にしろ」
「そうよ。ウィスタリアは疲れているのよ。お祖母様のところにでも行っていなさい」
「えー、お姉様がいるなら、私もいる」


そこから、親子喧嘩になったが、どうやら普段は祖父母のところに寝泊まりしていて、たまにしかこの家に妹はいないようだ。

そんなことも知らなかったウィスタリアは、妹の未来のためにとしていることが、全く妹のためになっていないことに気づいてしまった。


(ここが、私の実家ならと思っていたけど、この両親に期待していたのが、そもそもの間違いだったみたいね。夢を叶えるのに必死になって、大事な妹を1人にしてしまったせいだわ)


だが、そんな想いを抱いたことも、この家族には伝わらなかった。


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