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第1章

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学園を卒業したら、すぐにでも結婚して、あの家の事業を義父となったソレムの父親から教えてもらいつつ、ウィスタリアに引き継いでもらおうと思っていた。でも、そうなるまでにそれを飛び越えてウィスタリアは実践で頑張ることになるとは、ウィスタリアも予想してはいなかった。

彼の両親も、流石にそこまではと思っていたことが起きたが、ウィスタリアが息子の婚約者となっていたことで、希望を失うことなく動いていた。

そうでなければ、あそこまでになった事業を盛り返させるなどできるわけがないと諦めて破産宣告をしていたはずだ。

息子になど引き継がせたら、どんなに成功している事業でも、すぐに借金まみれにしてしまうのがオチだとも思っていた。よほどの世間知らずしか、彼の酷さを知らないなんてことはないほど有名だ。

できるなら、さっさと勘当したいと思っているが、ウィスタリアのために堪えていてくれていた。

あと少しの辛抱だと思っていたからこそ、ウィスタリアは婚約者に尽くしに尽くしていたのだが、そんなこと知りもしないソレムは、他の子息たちがげんなりしている理由もわからずにウィスタリアといつものように帰路に着いた。

彼に人の機敏など理解しろと言っても無理だ。ウィスタリアは世話になった子息たちに後できちんと礼を述べなければと思っても、あちらもわかっていて礼はいいからと婚約者の側にいさせてくれた。

そんなことがあって、一段落した時に突然、ウィスタリアはソレムにこんなことを言われた。それは、あまりにもあっさりと言われた。


「そうだ。言うのをすっかり忘れていた。君との婚約破棄することにした」
「え?」


ソレムが、そんなことを言い出したことにウィスタリアは何の冗談かと思った。全く笑えない冗談だと思っていたが、そうではなかった。

彼は、本気でウィスタリアとの婚約を破棄しようとしていた。そんなこと考えている素振りもなかった。


(何が起こっているの……?)


それを聞いて、流石のウィスタリアですら頭の中が真っ白になった。

事業が大変なことになったと聞いた時よりも、ウィスタリアは理解するのにそれなりの時間が必要だった。

多額の負債を目のあたりにした時は、すぐさま色んな方面からの改善やら見直しやらを次々に思いついて、すぐに行動できたウィスタリアが、しばらく呆然となったのは、婚約者からのその言葉の威力が凄すぎたからだ。

婚約破棄という単語から、ウィスタリアの思考回路を正常に戻すまで、数分が必要だった。


(ここで、私と婚約破棄するって言ったのよね? どうして?? いや、何をしていたかをこの人はわかってなかったのだから、何か私が思いもしないようなことを思ったのかも知れない。それにもうすぐ卒業なのに)


ウィスタリアが彼の家の役に立つことは、誰の目から見ても明らかだ。事業の才能は、その辺のお飾りの令嬢よりもあるのは確かだし、これから証明もなされていくはずだ。

それは、やり手の大人たちですら、今回のことで認めたほどであり、将来が楽しみだとまで言ってくれたのは、1人や2人からではない。

中には、ソレムには勿体ないからと他の子息、つまり彼らの息子を紹介されもしたが、ウィスタリアは首を横に振るだけだった。

中にはマルグリットの婚約者も、気になったのか。こんなことを聞いてきたこともあった。


「失礼だが、彼に……。君の婚約者にぞっこんなのか?」


それだと趣味が悪いと言われたりもしたが、ウィスタリアは苦笑してこう答えた。

マルグリットは、その辺のことを彼に話していないようだ。まぁ、伝えなくてもいいことだが。


「いいえ。一番の方に振られてしまったので……」
「あなたのような令嬢を振る男がいるとは。なんと見る目がないんだ」
「……」
「それで自棄になられたのか?」


自棄になるつもりはなかった。未だに癒えない傷があるが、彼女を婚約者のままにしているのだ。ぞっこんなのだろう。


(そうでなければ、あのままにしておくわけがないわ。卒業したら、結婚するのだもの。最低でも、数年はお妃教育に費やされる。ここまで、そのままなのだから、他と結婚する気はないということ。あの方が先を見ないなんてことはない。……そう、何かいみがあるはず)


王太子はあの人なのだからと思っていたが、ウィスタリアが思っている人ではないが、ジュニパーをそのままにしているのだから、どうしても婚約者のままにしたいのだと思っていた。

それが、まさか、自分のことで手一杯で他のことまで把握する余裕がないというか。面倒なことをしたくないから、ほっといているとは思うまい。


「一番の方に振られたのならば、一番自分を試せるところにしようと思ったまでのこと。ですが、こんな風に自分を試す機会が早まるとは思いもしませんでした。これからも試し続けていきたい。彼の側なら、他よりも多そうでしょうし」
「だから、彼を選ぶと? ……やはり、自棄になっておられるようにしか思えない。もっと、ご自分を大事になさった方がいい」
「……」


それでも、次に好きな人など、ウィスタリアにはいない。いないどころか。作る気が元よりなかった。未練がましいことにそんなことを思っていた。

なのにソレムとの婚約破棄されることになることは、想定などしていなかった。ウィスタリアからすることになっても、されることになるなど夢にも思っていなかった。

ウィスタリアでなくとも、誰も彼もがそう思っていたはずだ。そんなことを望んでいたのは、ジュニパーくらいだったはずだ。

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