上 下
18 / 111
第1章

18

しおりを挟む

(早く見つけないと。今日は、どちらに気が剥いているのやら)


ウィスタリアは、友達の令嬢たちとお茶をしていたが、ゆっくりなんてしていられず、婚約者を探していた。

お茶を楽しむ時間はなかったと思われているが、ウィスタリアにはそんなことはなかった。

一方的に出されたお茶を飲み切る時間くらいしかなかったが、友達が自分のためにと計画してくれたことだ。嬉しくないわけがない。


(変わらない方々よね。ありがたいわ)


それで帰ってもウィスタリアを怒る令嬢は、あの場にはいない。気心知れた人たちばかりだ。それも、ウィスタリアに嬉しくあり、自分は幸せ者だと思っていた

月に一度は、婚約したからもあぁやって束の間でもお茶をしていた。物凄く失礼でも、あの令嬢たちは心許せる友達でウィスタリアが忙しくしていることを知っているからこそ、それで怒ることはない。


(それに甘えてばかりで、心苦しいわ)


それでも、久々にお茶ができた。あんな風にお茶をする時間もなければ、学園の休み時間ですら、気軽にお喋りする時間もなかったのだ。ウィスタリアとて、友達と過ごしたかった。

それは、婚約者にウィスタリアがぞっこんで尽くしていたからではない。彼女は、尽くしに尽くしていても、ぞっこんだったからしていたわけではない。

そこは、あの場にいた令嬢たちは、断じて違うことを理解していた。

ウィスタリアの婚約者となった伯爵家のソレム。ソレムの家の事業が大変なことになった時が、一番忙しくしていた。身をこにして働いて大きく傾いた事業を盛り返したのも、ウィスタリアの手腕があったからこそだ。そうでなければ、彼の家は多額の負債を抱えて、とっくに金目のものを持って夜逃げを使用人や雇われていた者がしていただろう。

でも、そうしなかったのは、ウィスタリアがソレムの婚約者となっていたからこそだ。どうにかしてくれると彼の両親や事業の関係者も、そんなことできるのはウィスタリアしかいないと思ってのことだ。

ウィスタリアにできないことなら、誰にもどうすることもできないようなことだったが、それでも婚約者の家のためにウィスタリアは、寝る間も惜しんで立て直しをした。

卒業するまでにやると言った通りになった。今は、国をあげての一大事業にまでなった。

その間、学業の成績が下がりそうなものだが、彼女は不動の1位から動くことはなかった。

友達や先生方、彼女の両親はウィスタリアが倒れるのではないかと心配していたが、そうはならなかった。


「なんて方なの」
「凄いな」
「凄いなんて言えないわ。これは、もう……」


恐ろしいと言える。こんな方が、敵となることになれば、一族郎党がただでは済まないと思う者もいた。そうならなければ、頼もしい限りだ。

あの成績を維持したのだ。どの教科も満点以上を出したのだ。

授業中に寝ているのを見ても、先生方ですら見て見ぬふりをしていたし、友達以外も多忙な彼女を寝かせていた。顔色悪く、目の下に隈を作っているのを見たら、起こせるわけがない。

それを叩き起こす人物が2人いた。彼女の婚約者のソレムと王太子の婚約者となった先程のジュニパーだ。

ソレムの方には悪気はない。ないからいいというわけではないが、彼は空気が読めないだけだ。それと顔色悪く隈を作っている婚約者が、多忙で寝不足になっていることにも気づいておらず、なぜそんなにも忙しくしているのかもわかっていない子息だ。察しろなんて言っても、わかるはずがないことを殆どの人が知っていた。

もう一方は、悪気しかなかった。何も知らないかのようにしながら、無理やり起こすのだ。

そんなのを見ていれば、ウィスタリアの友達でなくとも、彼女を嫌うようになる者は減る訳がない。そんなことを他でもよくしていた。

ウィスタリアに何をしても勝てないからだろう。唯一勝てたのが、彼女にとって王太子の婚約者に選ばれたことのみだ。

それでも、すんなり勝てた訳ではない。本当なら、ウィスタリアが選ばれていたはずだったのだ。

そのことで、真実を知る者はいなかった。

王太子が忙しくしていて、自分のことに手一杯になったまま、婚約者が汚点のおかげで婚約できたと言いふらしていたことも、未だに知りもしなかった。

そのせいで、迷惑を被ってばかりいたのは、ウィスタリアだった。それすら、王太子は知らないままだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」  煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。  その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。  だったら良いでしょう。  私が綺麗に断罪して魅せますわ!  令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

姉の厄介さは叔母譲りでしたが、嘘のようにあっさりと私の人生からいなくなりました

珠宮さくら
恋愛
イヴォンヌ・ロカンクールは、自分宛てに届いたものを勝手に開けてしまう姉に悩まされていた。 それも、イヴォンヌの婚約者からの贈り物で、それを阻止しようとする使用人たちが悪戦苦闘しているのを心配して、諦めるしかなくなっていた。 それが日常となってしまい、イヴォンヌの心が疲弊していく一方となっていたところで、そこから目まぐるしく変化していくとは思いもしなかった。

身勝手だったのは、誰なのでしょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢になるはずの子が、潔く(?)身を引いたらこうなりました。なんで? 聖女様が現れた。聖女の力は確かにあるのになかなか開花せず封じられたままだけど、予言を的中させみんなの心を掴んだ。ルーチェは、そんな聖女様に心惹かれる婚約者を繋ぎ止める気は起きなかった。 小説家になろう様でも投稿しています。

「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」 侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。 「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」 そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。

可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした

珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。 それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。 そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。

処理中です...