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第1章
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ウィスタリアは、友達の令嬢たちとお茶をしていたが、ゆっくりなんてしていられず、婚約者を探していた。
お茶を楽しむ時間はなかったと思われているが、ウィスタリアにはそんなことはなかった。
一方的に出されたお茶を飲み切る時間くらいしかなかったが、友達が自分のためにと計画してくれたことだ。嬉しくないわけがない。
(変わらない方々よね。ありがたいわ)
それで帰ってもウィスタリアを怒る令嬢は、あの場にはいない。気心知れた人たちばかりだ。それも、ウィスタリアに嬉しくあり、自分は幸せ者だと思っていた
月に一度は、婚約したからもあぁやって束の間でもお茶をしていた。物凄く失礼でも、あの令嬢たちは心許せる友達でウィスタリアが忙しくしていることを知っているからこそ、それで怒ることはない。
(それに甘えてばかりで、心苦しいわ)
それでも、久々にお茶ができた。あんな風にお茶をする時間もなければ、学園の休み時間ですら、気軽にお喋りする時間もなかったのだ。ウィスタリアとて、友達と過ごしたかった。
それは、婚約者にウィスタリアがぞっこんで尽くしていたからではない。彼女は、尽くしに尽くしていても、ぞっこんだったからしていたわけではない。
そこは、あの場にいた令嬢たちは、断じて違うことを理解していた。
ウィスタリアの婚約者となった伯爵家のソレム。ソレムの家の事業が大変なことになった時が、一番忙しくしていた。身をこにして働いて大きく傾いた事業を盛り返したのも、ウィスタリアの手腕があったからこそだ。そうでなければ、彼の家は多額の負債を抱えて、とっくに金目のものを持って夜逃げを使用人や雇われていた者がしていただろう。
でも、そうしなかったのは、ウィスタリアがソレムの婚約者となっていたからこそだ。どうにかしてくれると彼の両親や事業の関係者も、そんなことできるのはウィスタリアしかいないと思ってのことだ。
ウィスタリアにできないことなら、誰にもどうすることもできないようなことだったが、それでも婚約者の家のためにウィスタリアは、寝る間も惜しんで立て直しをした。
卒業するまでにやると言った通りになった。今は、国をあげての一大事業にまでなった。
その間、学業の成績が下がりそうなものだが、彼女は不動の1位から動くことはなかった。
友達や先生方、彼女の両親はウィスタリアが倒れるのではないかと心配していたが、そうはならなかった。
「なんて方なの」
「凄いな」
「凄いなんて言えないわ。これは、もう……」
恐ろしいと言える。こんな方が、敵となることになれば、一族郎党がただでは済まないと思う者もいた。そうならなければ、頼もしい限りだ。
あの成績を維持したのだ。どの教科も満点以上を出したのだ。
授業中に寝ているのを見ても、先生方ですら見て見ぬふりをしていたし、友達以外も多忙な彼女を寝かせていた。顔色悪く、目の下に隈を作っているのを見たら、起こせるわけがない。
それを叩き起こす人物が2人いた。彼女の婚約者のソレムと王太子の婚約者となった先程のジュニパーだ。
ソレムの方には悪気はない。ないからいいというわけではないが、彼は空気が読めないだけだ。それと顔色悪く隈を作っている婚約者が、多忙で寝不足になっていることにも気づいておらず、なぜそんなにも忙しくしているのかもわかっていない子息だ。察しろなんて言っても、わかるはずがないことを殆どの人が知っていた。
もう一方は、悪気しかなかった。何も知らないかのようにしながら、無理やり起こすのだ。
そんなのを見ていれば、ウィスタリアの友達でなくとも、彼女を嫌うようになる者は減る訳がない。そんなことを他でもよくしていた。
ウィスタリアに何をしても勝てないからだろう。唯一勝てたのが、彼女にとって王太子の婚約者に選ばれたことのみだ。
それでも、すんなり勝てた訳ではない。本当なら、ウィスタリアが選ばれていたはずだったのだ。
そのことで、真実を知る者はいなかった。
王太子が忙しくしていて、自分のことに手一杯になったまま、婚約者が汚点のおかげで婚約できたと言いふらしていたことも、未だに知りもしなかった。
そのせいで、迷惑を被ってばかりいたのは、ウィスタリアだった。それすら、王太子は知らないままだった。
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