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第1章
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しおりを挟むそれとウィスタリアは、あちらの国の多くの貴族にこんなことを思われていた。
「それにしても、実に勿体ない。なぜ、あれほどまでの方とあちらの王太子は婚約しなかったんだろうな」
「その話をウィスタリア嬢の前でするな」
「なぜだ?」
不思議そうにした。ウィスタリアが、婚約者になりたくて頑張っていたことを知らずとも、この国にも噂は広がっていた。
「噂だがな。……今の王太子は、顔と性格が、お好みではないからと言われているそうだ」
「は? だが、今の婚約者は、顔どころか。性格は、最悪だと聞いているが?」
「そこだ。まぁ、そのおかげで、この事業が上手くいくようなものだ。ウィスタリア嬢が、婚約者だったら、ここまで関われまい」
「確かにそうだが。それで、今の婚約者を選ぶとはな」
「婚約者より、この事業に携わりたかっただけのようだぞ」
「そうか。それなら、わかる。あれが、好みだと言われたら、残念すぎる」
そんな風に思われていたことなど、ウィスタリアは知りもしなかった。
何にせよ。事業に関わるには一番いい方向に向いていたのは、間違いない。
「だが、あんなのと結婚させるくらいなら、うちの倅の方が……」
「それも、やめとけ」
「?」
「あの方が、あれだけ気に入っているのだ。少しは察しろ」
「っ、そ、そうだな。あんなに聡明な令嬢だ。我が息子ごときでは、令嬢に失礼だな」
こうして、ウィスタリアは知らないところで、婚約が駄目にればいいと思われていたようだが、それを知ることもなかった。
破棄となったら、一番相応しい相手と今度こそ婚約することになり、隣国のウィスタリアを気に入った面々は大いに喜ぶことになったが、そうはならず。それどころか、悲しすぎる結末を迎えるとは、誰も思ってはいなかった。
(あの方、名前だけしか残らなかったけど、どこの貴族なのかしら?)
そんなことを思ったが、自国の貴族よりも賛同してくれる人たちが多く現れたことに驚いてもいた。
「ウィスタリア嬢。ありがとう」
「いえ、私は何も。お礼なら、紹介してくれたマルグリットに言ってください」
「もちろんだ。だが、君のおかげだ。私1人では、あんな念入りな計画をプレゼンできなかった」
「そんなことはありません。基礎を教えてくださったからこそです」
そんなことがあって、馬鹿げた空論だの。おとぎ話のようなものと笑っていたウェールズ国の貴族たちも、よく話も聞かずに笑い飛ばしていたかも知れないと話を聞きたがる者は増えていった。
それは、ウィスタリアの父親もそうだった。それこそ、父は、ソレムがやらかしたことを真っ先にそれ見たことかと馬鹿にしていた。
(そう言うところは、変わってなかったみたいね)
ウィスタリアは、あの家を出てから会うこともなくて、久しぶりに話題を耳にした時にそんなことを思った。
だが、それだけだった。他に何も思うことはなかった。
それが、周りの貴族たちどころか。ウェールズの国王ですら、隣国と合同でその事業をやることに乗り気になっていると耳にして、ようやく笑っていたのがまずいことをしたと思ったようだ。
(今更よね)
でも、父親だからといって、ウィスタリアはわざとおざなりにすることはなかった。同じように扱った。
それこそ、国王ですら、あちらの王からそんな話をされて知ったらしく、絶賛されて知ったのを悔しそうにしていたが、我が国の貴族で素晴らしいことをしている者がいるとプレゼンをソレムの父親である伯爵がしたのを聞いて、隣国の王が絶賛するだけはあるとして、国をあげて支援すると言い出したのだ。
そこまでになって、伯爵は腰を抜かしそうになったが、プレゼン中にならなくてよかったと思ってさたのは内緒だ。
ウィスタリアの父である侯爵は娘が携わっているのだから当然のように周りに話すようになって、周りに白い目を向けられているようだが、本人は気づいていないようだ。
「ウィスタリア嬢のおかげだ」
国王の前のみならず、その後は貴族を一同に集めたところでのプレゼンもすることになり、ようやく終わって帰って来るなり、そう言ってくれたが、気がかりなのは残ったままだった。
(問題は彼だけね)
やたらと家の事業のことで、褒められることが増えたのだ。
それが何のことなのかがわからないソレムも、褒められていることだけはわかって鼻を高くしていた。
よくわからないで鼻を高くしているのは、ウィスタリアの両親や祖父母だが、よく似ていると思ってしまった。
でも、父親たちよりも、婚約者が一番問題だった。
(あと数ヶ月で卒業するのよ。それまで、変なことさせないようにしなくては、もうあんな隙を見せられないわ。ここまでになったのを潰しにこらはしないだろうけど)
隙を突かれはせずとも、ほんの少し目を離したせいで、前回のようなこと以上のことになったら、一巻の終わりにはならなくとも、危ういことになる。それをソレムなら容易くできるのだ。
(ここまで来たのにぶち壊されたくないわ)
ウィスタリアは、そんなことを思っていた。
それこそ、ウィスタリアでなくとも、そう思うところだが、そこには並々ならぬものがあった。
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