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第1章
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しおりを挟むするとジュニパーのお茶会は、その日以降、開かれなくなった。
「予定を入れたのに」
「残念だわ。せっかく、ウィスタリア様とお買い物に行けると思ったのに」
「え? 行けなくなってしまったの?」
「え、行ってくださるの?」
「? そう言うお話だったわよね?」
「えぇ、凄く嬉しいわ!」
他の者も、ジュニパーの開くお茶会を回避しようとしただけなのだが、それにウィスタリアを巻き込んでいた者たちは、本当に約束したからとするのに驚きながらも、嬉しそうにした。
中でも、古代語を教えてほしいと言う令嬢は……。
「感激しました」
「え?」
「私も」
「あの、何のお話?」
ウィスタリアは、古代語を教えてほしいと言われて、参加したいと言う令嬢たちに教えることになったのだが、何やら感激されていた。
「こんな流暢に話されるなんて、思わなくて」
「え? そんなことないわ。本当は、もう少しテンポを早くしたり、遅くしたりして話すのよ」
「え? テンポ??」
「? ここに表記があるでしょう? これで、速度がわかるのよ」
「っ、そうなのですね」
「初めて知りましたわ」
「奥深いのですね。……私には難しすぎて、発音できそうもありませんわ」
「婚約者の方は、どの分野の古代語がお好きなんですか?」
「え? 分野、ですか?」
ウィスタリアの問いに他の令嬢たちも一斉に首を傾げた。古代語は奥深いのだ。どの方面のものも読み解くのが楽しい者もいれば、芸術面のものに触れたり、政治的なものに触れて、今でも通用する哲学を知ったり、その他にも多方面にわたっていた。
そのため、王族はそれを必ず覚えるのだ。王族に嫁ぐ者も、みんな得意分野を極めるのだが、その中でもウィスタリアは分野の違う家庭教師がついてくれていた。
(先生たちには申し訳ないことをしたわ。あんなに時間を割いてまで私のために教えてくださっていたのに。私が、婚約者に選ばれなかったのだもの。失望させてしまったわね)
その辺の話をしただけで、普通は知らないことのようだ。だが、両親は素質があると先生方に言われるままに雇ってくれたため、ウィスタリアは王太子の婚約者になるためと頑張っていた。
(ずいぶんと昔に思うけど、最近までやっていたのよね。……よく、倒れなかったわ)
「あの、ウィスタリア様。古代語の家庭教師が何人おられたのですか?」
「一番多くて5人よ。でも、流石に頭が混乱してしまって、3人にしてもらったわ」
そんなこんなで、ウィスタリアは婚約者がどの分野を好むかを聞いたり、流暢に話せずとも、他のことで古代語の知識があるとわかって、婚約者が喜んでくれたとその後、しばらくしてから嬉しそうに話す令嬢と益々仲良くなった。
「ウィスタリア様のおかげですわ。ありがとうございます」
その後も、仲良くしているようで、時折ついていけない知識を補うためにウィスタリアに尋ねることはあったが、婚約者とは手紙のやりとりだけでも楽しそうだ。特に子息からの返事が早いらしく、返事を書くのも大変だと言っていたのをウィスタリアは微笑ましそうに聞いていた。
ただ、留学から戻って来た子息が彼女にべったりで、大変だという彼女は満更本当に困ってはいない顔をしていて、それには流石にウィスタリアも苦笑していた。
(仲良すぎて、喧嘩になったら大変そうね)
そんなことを思ってしまったが、その読み通りこの2人が喧嘩すると口も聞かなくなって一緒にもいなくなり、周りや特にウィスタリアが心配げにしてフォローしているとそのうちもとに戻るというのをこの後幾度か繰り返すうちに心配し続けるのは、ウィスタリアだけになり……。
「ウィスタリア様、ほっといて平気よ」
「でも」
ウィスタリアが関わるのをやんわりと止める令嬢も現れながら、この2人は結婚した後もお騒がせなところが変わることはなかったようだ。
ジュニパーのお茶会もなくなり、古代語について知っていることを教えている間にウィスタリアの心をかき乱すことが起こっていた。
お茶会の時から、ごますりに必死になっていた令嬢たちは相変わらずジュニパーの周りにいた。すっかり取り巻きになったようで、離れることはしないようだ。
そんな者たちを周りに集めたジュニパーが、こんなことを言っていたのだ。
「彼女の唯一の汚点は妹なのよ。そのせいで、彼女は婚約者候補、止まりになったの」
「っ、」
(は? プリムローズが、汚点……? 今、ジュニパーは、妹のことを汚点と言ったの……?)
ウィスタリアは、汚点とまで言われて思考が停止した。
ジュニパーが、選ばれなかった理由を知っていることに驚いた。国王ですら王太子に聞かないとしたことを本人に聞いたとは思えない。ならば、王太子がジュニパーにそう話したことになる。
(まさか、王太子が、そう言っていたの……?)
「あら、そこまでなのですか?」
「そうよ。あれじゃ、嫁がせるなんて無理でしょうから、修道院にでも入るしかないわ」
だから、選ばれなかったのだとジュニパーは話していた。それによって自分が選ばれたから、感謝しているとまで言ったのだ。
(こんなのを私は親友だと思っていたの……? こんな酷いことを言う令嬢を私は……。自分には兄弟も、姉妹もいないから、羨ましいと言っていたのに)
まず、ウィスタリアは自分の見る目のなさに愕然とした。そして、妹を馬鹿にしてあざ笑う姿に怒りを覚えた。
それ以降、ウィスタリアは親友だとは二度と言わなくなった。あちらは、変わらず親友だと言っていたが、ウィスタリアは肯定も否定もしなかった。
いつもと変わらぬ顔をしていたが、その目の奥に怒りがあることに気づく者は、それなりにいた。妹を溺愛していることを知っている者たちだ。
でも、まさか、その後、汚点と言われるに相応しい令嬢に妹が成り果てていくとまでは思っていなかったが、そのせいで誰もが誤解した。真実を目にした者たちですら、そうだった。
婚約者に選ばれなかったのは、汚点のせいだと広めたのは、ジュニパーだった。
それで、汚点がなければ選ばれなかったとジュニパー自身が思われることになるとも知らず、ウィスタリアを馬鹿にできない代わりに妹の方を必死に馬鹿にしていた。
そんなことを頑張らずにもっと別のことを頑張っていればよかったというか。頑張らねばならないはずだが、ジュニパーは他を苛つかさねばならないようだ。時にウィスタリアのことを傷つけられれば、それでストレスが、発散される。そういう令嬢となっていった。
まるで、初めからそういう令嬢だったかのようになってしまった。
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