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第1章
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しおりを挟む「彼女も大変よね」
(ジュニパー……?)
ジュニパーの声がして、ウィスタリアは足を止めた。婚約したことで、たくさんの人が彼女のことを祝福してから1か月ほど経っただろうか。
その間にお茶会が開かれてウィスタリアも参加した。そこでも、ジュニパーが王太子の婚約者になったことで褒めちぎる令嬢が、それなりにいてウィスタリアはそれを距離を取って見ていた。
親友だと思っていた彼女が、まるで別人のようなことばかりしていて、戸惑ってもいた。
(あからさまなものばかりね。あんなの聞いていたら、とても疲れそうだけど……)
「あら、そんなことないわ」
「……」
(よく、話を合わせていられるわね)
そんなことを思ったのは、ウィスタリアだけではなかったようだ。
「聞き飽きてしまいますね」
「そうですわね。同じような褒め言葉ばかりですものね」
ごますりまでして無理やり仲良くしようと思っていない令嬢もいた。そういう令嬢は、ウィスタリアの周りに集まっていたが、ウィスタリアはその会話に入ることはなかった。
家の付き合いもあるため、あからさまな態度は取れない者もいるのだろうが、みんなジュニパーを不快にさせられないとして、やたらとヨイショしていた。それに出ただけでウィスタリアは疲れてしまっていた。
それも、あからさますぎて、ちらほらと馬鹿にしてすら聞こえるが……。
「そうでしょ? これは、とても珍しいのよ」
「そうなのですね。見たことありませんもの。それにとてもよくお似合いで、羨ましいですわ」
「流石はジュニパー様ね。私では、着こなせないわ」
今日は、服についてのようだ。
「主催しているのにあの格好って、こっちが気を遣うわよね」
「えぇ、毎回呼ばれるたび、合わせるのが大変だわ」
どうやら、服については疎いようだ。
(それも、苦手とは言っていたけど、今は堂々としていて、それも変なのよね)
「この間は、髪型でしたわ」
「その前は、装飾品。……いえ、靴のことでしたね」
あまり悪く言いたくはないが、ジュニパーはそういうことを気にかけない令嬢のようだ。それもあって、言葉で嫌味なことを言っている者も多いのだが、それらがどうにも……。
「そんなことないわよ! こんなこと大したことないわ」
「……褒めてないわよ」
「っ、」
「ちょっと、笑わせないでよ」
ジュニパーは、褒め言葉と何でも素直に捉えてしまっていた。彼女の周りの取り巻きも、同等なのか。わざと合わせているのかわからないが、ジュニパーに合わせていて、いうなればお茶会は、毎回嫌味の応酬がメインになっていた。
しかも、伝わらないのだ。何を言っても、王太子の婚約者には、ウィスタリアがよく知る彼女は、そんな人ではなかったはずだ。まるで、そっくりな別の誰かを見ているような奇妙な感覚をウィスタリアは感じずにはいられなかった。
「このお茶会、この頻度でするなら、次回は遠慮しようかしら」
「あら、あなたも? 私も、そうしようかと思っていたわ」
「ウィスタリア様は、どうされますか?」
「私は……」
「良ければ、街でお買い物など、ご一緒してはいただけませんか?」
「お買い物」
「あら、ずるいわ。なら、私は、別の日に甘いものでもご一緒してください」
ウィスタリアの周りは、ウィスタリアが用事がなければジュニパーのお茶会に出るだろうと思っていた。
だから、あの手この手で予定をいれさせ、それで自分たちもお茶会を回避しようとしたようだ。
「皆さん。程々にしなくては、ウィスタリア様は休めないわ。ウィスタリア様、今度、勉強会を開いてくださいませんか?」
「勉強会?」
「えぇ、私の婚約者が隣国に留学しているのですが、古代語が堪能なんです。私も、覚えたいのですが、どうにも難しくて、ウィスタリア様はお出来になられるのですよね?」
「えっと……」
「あら、何のお話?」
そこにジュニパーが会話に入って来た。ウィスタリアが、話題の中心にいるとこうして入って来るのだ。そこからも、ウィスタリアにだけは負けたくない何かを感じずにはいられなかった。
「ウィスタリア様に勉強会を開いてほしいとお願いしていたところです」
「ウィスタリアに?」
「あ、ジュニパー。古代語なら、お妃教育でもあったわよね?」
「え? こ、古代語?」
「えぇ、古代語よ」
ジュニパーは、何の話だと言わんばかりの顔をした。
(え? 何で、そんな顔をするの……??)
「王太子妃となるには、必須だったわよね?」
「え……」
「あ、そうでしたね。私、苦手なので、候補を辞退したんですけど、最近、婚約した方が、堪能な方で、私も本腰入れて覚えようなと思ってウィスタリア様に教えていただこうかと思って」
「そんな私なんて候補になるまで、それなりに頑張っていたけど、今は全くしていないもの。それに比べたら、ジュニパーはお妃教育で勉強しているでしょうから、私なんかよりずっと堪能なはずよ」
するとジュニパーは、なぜかあからさまに動揺した。
「ジュニパー?」
「その、私は……」
「そんなジュニパー様は、お妃教育で忙しいはずですもの。ご無理を言っては可哀想よ」
「そうそう。これから、学園の勉強とお妃教育の両立をなさるんですもの。このお茶会だって、こんなに頻繁には流石のジュニパー様でも両立は難しくなるはずよ」
「勉強の両立」
なぜか、知っているはずなのにジュニパーの顔色は悪くなっていくばかりだった。
「ジュニパー、大丈夫?」
「え、えぇ、大丈夫よ」
だが、その日はいつもより早めに終わることになった。
(一体、どうしたのかしら?)
ウィスタリアは、ジュニパーがなぜ、あんなに動揺していたのかわからなかった。
よく知っている彼女は、苦手ながらも必死になって努力していた。だから、そのことを当たり前のように知っているはずなのだが、どうにも初めて知ったかのような態度が気になってならなかった。
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