上 下
5 / 64
第1章

しおりを挟む

「見事にでしたね」
「そうだな。さて、見終わったことだし、帰るか」
「うん!」


プリムローズは、花火を見たことで満足していた。帰る気でいたのにそこに現れたのだ。


「あら、プリムローズちゃん! ここにいたのね」
「あ、おばあさまだ」
「「っ、」」


母方の祖父母と両親とプリムローズは遭遇して、あからさまな顔をしたのは、プリムローズの両親だった。


「プリムローズ。街に行かないのか?」
「?」
「お父様、もう遅いで私たちは帰ります」
「あら、街を見せずに帰るの? 可哀想じゃない」
「そうだぞ。プリムローズ、何でも好きなもの買ってやるぞ」
「食べ物でも、遊ぶものでもいいわよ。好きなものを買ってあげる」
「でも」
「あら、ウィスタリアは?」
「おうち」
「そうなの、なら、お土産に何か買って帰りましょうよ」
「おみやげ」
「お母様、何も、今日でなくとも……」
「今日しかないものも売っているのよ?」
「そうなの?」
「そうだぞ。今日は、特別だからな」
「……いきたい。おみやげ、かう」


街には行かないと言っているのにプリムローズを言葉巧みに誘導して、プリムローズを連れて行ってしまったのを忌々しそうに見ていた。


「あなた」
「お前に止められないんだ。私にも無理だ」
「そうですけど」
「あれだけ言うんだから、大丈夫だろ。プリムローズも、懐いているんだ。流石に連れて帰るだろ」
「……そうよね」
「やれやれ、せっかくの花火が台無しだ」
「本当ですね。やはり、私たちの結婚式のが一番でしたね」


両親は、厄介な2人にできるなら関わりたくないと思っていた。

プリムローズをあれだけ言って連れて行ったのだから、きちんと面倒見てくれるものと思っていた。

でも、祖父母は、両親よりも酷かった。どちらも保護者として失格だとしても、最悪すぎた。


「あら、プリムローズちゃんは?」
「は? お2人が連れて行ったではありませんか」
「人聞き悪いことを言わないでちょうだい」


無理やり街に連れて行ったのだから、連れて帰って来ると思っていた両親は、祖父母が姿が見えなくなったから、先に帰ったと思っていたと言うのに激怒した。

街に行く気はない両親は、祖父母がプリムローズを連れて行ったのだから、連れて帰って来るものと思っていたが、祖父母は違っていたのだ。

お互いが、プリムローズが迷子になったのは、相手のせいだと喧嘩しているところにウィスタリアは、騒ぎを聞きつけて部屋から出て来て、言い争うだけの大人たちに怒り以上の呆れを感じた。


(なんてことなの。あの子を置いて来るなんて)


すぐにプリムローズを探すために家の使用人たちに手配してもらい、街の自警にも連絡して迷子がいないかを問い合わせるとすぐに見つかった。それをしたのは、ウィスタリアだった。

案の定、プリムローズが街に行って迷子になってしまい、大変なことになったが、その経緯を聞いて探すでもなく責任のすりあいをしている大人たちにウィスタリアは呆れるしかなかった。


(一緒に行けばよかった)


プリムローズが無事見つかったことを喜ぶ大人たちにウィスタリアは、そんなことを思うばかりだった。

よほど、心細い思いをしたのか。プリムローズは、姉にひっついて回って大変だったが、それにこりて、もう祖父母とは何があっても着いて行かないと思っていた。

それに祖父母も、そんなことをしたのだ。大いに反省していると思っていたが、そんなことにはならなかった。

祖父母が頑張ったのは、全く別のことだった。


「全く酷いわよね。あんなに混んでいるならそう言ってくれればいいのに」
「そうだな。迷子になると思っていたから、ウィスタリアは出かけないと言ったんだ」
「……」
「酷い姉がいたものね」
「全くだ。プリムローズは優しいから、お姉さんのお土産を買おうとしただけなのに」
「そうだな。ウィスタリアのために動こうとしたから、こうなったんだ」


プリムローズにあの日のことをどうにかして、祖父母は自分たちのせいではないと印象付けたかったようだ。

この一件で、祖父母と一緒にいたくないと拒否されたのが、よほどこらえたようで両親のせい。ウィスタリアのせいだとプリムローズに会うたび言い、祖父母はプリムローズに珍しいお菓子や隣国で流行りの洋服などを会うたび、あげた。

そのうち、その記憶がプリムローズの中で本当になってしまうだけでなく、祖父母は嫌われたくないとばかりに甘やかし、よく知りもしないのに怒られたと言うプリムローズの言葉だけを切り取って、無闇矢鱈と叱るなと両親やウィスタリアに言うようになってもいった。

そうなる前までとは違い、祖父母が何とかしてくれると思って、わがまま放題になっていき、それが治らないままになってしまうが、両親は早々に付き合いきれないとプリムローズに何か言うのも、祖父母にやめるように言うのも面倒くさくなってしなかった。

ウィスタリアには、そんな余裕はなかった。婚約できなかったことで、色々と言われてしまうことになったのだ。それに応対するのに疲れてしまっていて、妹のことに構えなくなっていた。

どんなに煩わしく思っていても両親にとっては娘だ。祖父母をどうにかしてくれると思っていた。いや、思いたかった。花火のあとで、連れて行かれて、置いて来たのだ。

だが、早々に末娘のことなのに面倒がって放置していたとは思わなかった。妹のことだけでなくて、祖父母の相手すら面倒くさくなって、3人で好き勝手させておけば、面倒を見ることもないことに気づいてしまったようだ。

それにウィスタリアが、花火を見せに連れて行ってと言わなければ、そもそもあんなことにならなかったかのように両親が思っていたことも、ウィスタリアは後から知って言葉を失ったが、それらは後の祭りのような状態になっていた。


(全部、私のせいってことにしたようね。両親も、祖父母も、そっくりね)


そんな両親にあぁ、そう言えばと思ったのは、すぐだった。


(こういう人たちだったわ。祖父母が酷いから忘れていたけど、両親もそうだった。されて嫌なことを自分たちがされなければ、関係ない人たちだった)


母方の祖父母が酷いと両親は愚痴愚痴言っているが、ウィスタリアからしたら酷さの程度が違うが両親も中々だと思うことは度々あった。

でも、そこまでの間にウィスタリアは、王太子と婚約できなかったことで色々起こっていた。ウィスタリアも、自分のことで手一杯だったが、それでも誰かのせいだと思うより自分がやればよかったと思っていた。

自分が姉としてきちんと妹を見ていたら、プリムローズは大人たちの都合で、あんな風にならなかったと後悔している気持ちが消えることはなかった。

されど、ウィスタリアもまだ子供だ。婚約がうまくいかず、図に乗っていたつもりはないが、婚約できなかったことで、婚約できたというのにその令嬢に何かと言われて、日々探しまわってでも絡まれていて、それに物凄く疲れていた。

それすら、両親はフォローの1つしてくれず、身内は好き勝手にしていただけで、婚約できなかったのはウィスタリアなのだから、できなかった者がどうにかすればいいと思っていたことで、婚約できないはずがないと吹聴して回っていたツケをウィスタリアがどうにかしている状況だったが、それは言い訳に過ぎなかった。

プリムローズの頼れる相手は、ウィスタリアしかいなかったのだから。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

白紙にする約束だった婚約を破棄されました

あお
恋愛
幼い頃に王族の婚約者となり、人生を捧げされていたアマーリエは、白紙にすると約束されていた婚約が、婚姻予定の半年前になっても白紙にならないことに焦りを覚えていた。 その矢先、学園の卒業パーティで婚約者である第一王子から婚約破棄を宣言される。 破棄だの解消だの白紙だのは後の話し合いでどうにでもなる。まずは婚約がなくなることが先だと婚約破棄を了承したら、王子の浮気相手を虐めた罪で捕まりそうになるところを華麗に躱すアマーリエ。 恩を仇で返した第一王子には、自分の立場をよおく分かって貰わないといけないわね。

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

【本編完結】はい、かしこまりました。婚約破棄了承いたします。

はゆりか
恋愛
「お前との婚約は破棄させもらう」 「破棄…ですか?マルク様が望んだ婚約だったと思いますが?」 「お前のその人形の様な態度は懲り懲りだ。俺は真実の愛に目覚めたのだ。だからこの婚約は無かったことにする」 「ああ…なるほど。わかりました」 皆が賑わう昼食時の学食。 私、カロリーナ・ミスドナはこの国の第2王子で婚約者のマルク様から婚約破棄を言い渡された。 マルク様は自分のやっている事に酔っているみたいですが、貴方がこれから経験する未来は地獄ですよ。 全くこの人は… 全て仕組まれた事だと知らずに幸せものですね。

魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。

ユユ
恋愛
幼い頃から築いてきた彼との関係は 愛だと思っていた。 何度も“好き”と言われ 次第に心を寄せるようになった。 だけど 彼の浮気を知ってしまった。 私の頭の中にあった愛の城は 完全に崩壊した。 彼の口にする“愛”は偽物だった。 * 作り話です * 短編で終わらせたいです * 暇つぶしにどうぞ

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

処理中です...