15 / 15
15
しおりを挟む「ヨランダ様。……また、王太子ですか?」
「えぇ、幽霊をどうにかできると思われても、どうしたらいいのでしょうね」
ヨランダは、縋りつかれているのがわかっても、どうにもできないと思っているだけで、気味悪いと思うよりも、困っているだけのようにしていた。
令嬢たちも、気が変になっている王太子の相手はできないようで、王太子が現れる頃合いになるとヨランダの側からいなくなっていたが、ヨランダはそれを気にしたことはなかった。
いなくなると戻ってくる距離にいるのだ。王太子でなければ、そんなことはないのだが、よほど苦手なのだろう。わからなくもないが。
だが、そんなことをし続けていたのもあり、執務もまともにできなくなった王太子は廃嫡となり、療養することになって、第2王子が王太子となった。
散々なまでに兄が迷惑をかけたとヨランダに何度となく謝罪していた彼にヨランダは……。
「よくなるといいですね」
「そうだな。だが、幽霊を見たがっていたのが、叶っただけなんだが、こればっかりはな」
「……」
ヨランダは、叶っただけと聞いて、ふとよくなっているだけかと思っただけで終わった。
そう望むままになっているだけなのだ。それをどうにかしてくれと言われても、望みが叶っているだけなのだ。ヨランダには、どうすることもできない。
それこそ、今の彼にはどうにかしてほしくとも、それをその何倍も願っていたのだ。本人が、どうにかするしかない。そんなことをヨランダは思ってしまったが、言葉にすることはなかった。
幽霊が見えるようになった彼のことで、新しい王太子と何かと話すようになったヨランダは、彼の婚約者となるのも必然のようだった。
それこそ、あの時、幽霊を探していてヨランダを連れて来てくれたのを知っているクロードと執事。更には、王太子の影や御者が、出会っていることを話さなかったことでなかったことになった。
何より、ヨランダは本当に覚えていないのだ。いや、完全に覚えていないわけではなかったようだ。
「あれ……?」
「どうした?」
「なんか、人の気配が多い……?」
「あぁ、私が、王太子になったから影がついたのだろう」
ヨランダの疑問に婚約者が、サラッと答えて影を紹介しようとして呼んで、あれこれ話し始めたのだが……。
「……あの、殿下。どなたと話しておられるのですか?」
「え……?」
どうやら、随分昔に命じられた王太子を守る命令を守っている者たちがいたようだ。
つまりは、幽霊を見たがっていた彼は、見えていなかったわけではなかったということになる。
だが、ヨランダと婚約した王太子は、そうは思うことなく、ヨランダが冗談を言っていると思って深く追求することはなかったが、影のことをその後、彼が呼ぶこともなかった。
まぁ、色々あったが、ヨランダは王太子の婚約者として申し分ない令嬢となり、彼の隣に立ち続けるに相応しい者となった。
色々ありすぎたが、ヨランダは母がここまでになることを予想していたかはわからないが、夢を追いかけ続け、頑張り続けたおかげで、王太子が国王となって、その隣に並び立つヨランダは、国内外でも有名な王妃となることになり、彼女が助言するおかげで国は益々栄えていくことになった。
国王の名前より、王妃の名前が歴史に深く残ることになったが、本人はやりたいことをやり続けているだけで、素晴らしい人生を愛してやまない人と歩むことができたのだった。
エミリアンも、ヨランダのことで才女に慣れたのも良かったのか。母親よりも、父親に似た令嬢と婚約した。
彼女とも、ヨランダはすぐに仲良くなれたが、嫁姑問題が勃発していて、エミリアンとクロードは会うたび、疲れた顔をしていたが、ヨランダが巻き込まれることはなかった。
ヨランダが忙しくて会えずにいる間に解決しているだけのようだ。
94
お気に入りに追加
193
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

偽りの愛に終止符を
甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる